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銀男は半笑いを浮かべながら、義圭に手を差し出した。
この人には何度命を助けられただろうか。義圭は銀男とはたった二日だけの付き合いなのに、今まで会った人間の誰よりも尊敬の念を覚えるのであった。
手が触れる直前、天狗は激憤し銀男に向かって飛びついた。銀男は持っていた拳銃を地面に落としてしまった。そして、川へと引きずり込み顔を何度も何度も水の中へと押し込みにかかる。
銀男も抵抗し必死に水面へと浮き上がるが、天狗は無慈悲にも頭を押さえつけ、水の中に押し込む。このままでは銀男が目の前で殺されてしまう。
この後の行き先は聞いている、目の前にある小道に駆け込めば逃げることが出来る。だが銀男は見捨てたくないし、見捨てられない。
義圭が取った行動は落ちていた拳銃を手に取ることだった。アニメやゲームの真似事しか出来ない。両手でしっかりと銃を構え、撃ちたい先に向かって、しっかりと銃を固定し、撃鉄を引く、銃上部の凸凹がしっかりと合ったら、引き金を引く。なんだ、簡単じゃないか。今は弾が使えるとか、どうのこうのと考えている暇はない。
頼むから最後の一発よ、生きていてくれ! と、考えながら義圭は神様に願った。
そして、目の前にいるこの村の天狗様を殺す勇気を下さいとも願いを込めた。
義圭は天狗の心臓に向かって銃を構え、引き金を引いた。乾いた音が採石場内に響く……
天狗の白い修験者装束の左肩に赤い点が輝いた。
外してしまった…… 心臓を狙ったのに、当たったのは肩だった。
肩に一発の弾丸を当てたぐらいで天狗の動きが止められるとは思わない。
やっぱり神様はいないのか。無慈悲なものだ。義圭は力なく握っていた銃を地面に落とした。
天狗は右肩を押さえ、悶え苦しんだ。まさか痛がっているのか?
義圭は恐る恐る天狗に近寄った。天狗は真っ赤な顔を更に赤くし、泣き喚いていた。明らかにこれまでで一番苦しんでいる。
地面をのたうち回る天狗の袴が捲れ上がった。天狗の脛には大きな茶色の痣が付けられている。左の袖も捲れ上がった。二の腕には同じような茶色の痣がついていた。
「銃痕…… ですね。それもかなり昔についたような」
解説するのは、全身水に濡れた銀男だった。息を切らしながら髪をオールバックにかき上げていた。
「銀男さん! 大丈夫ですか!」
「あれぐらいで死んじゃ…… いられませんよ…… 意識飛びかけてましたけどね」
「良かった」
「おそらくは、前に食らった銃撃の痛みが心的外傷になって必要以上に苦しんでいるようですね。人間、同じ痛みと言うのは受けたくないものです。あなたの伯父さんが前に撃ち込んだ弾丸のお陰でしょうか」
父娘に命を二度も救われた…… 義圭は二人に感謝し、涙ぐんだ。すぐに涙を拭い、川へと足を踏み入れた。
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