四章 天狗の抜け穴

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こうしてステラは地獄を逃れて夫が生まれた村、雨翔村で暮らすことになった。 だが、そこもまた地獄だった。宮司一族が天狗攫いと称して、村の女を攫って強姦していたのである。 ステラはその欧州人特有の彫りが深く見目の麗しい外見をしていた。それを見逃す宮司一族ではない。天狗攫いと称してステラを攫ったのである。 それを咎めたステラの夫は宮司一族によって袋叩きに遭って殺されてしまった。 「子供も生まれたさ! それがさっきまでアンタ達がいじめていたカニス・アイテールさ! アイテールはあたしに似てたさ! 生まれた時から日本人の外見じゃなかった! もう無くなった国の赤ん坊まんまの姿だよ! それを見た父親は不気味がって天狗の抜け穴に放り込んだのさ!」 この村には本来の天狗攫いの意味である「悪質修験者の性欲処理」の方の天狗攫いが元々存在していた。その事実に義圭は困惑するのみである。 「たとえ、犯されて出来た子でもあたしの子には変わりがない! あたしは村の者に隠れてここを探し当てた! それからずーっとこの子の世話をしてたんだ!」 ステラはそれを宮司に言ったところ「一応我が子だから」として、協力してくれる流れとなった。 食料の供与、ステラによる母国の言葉の読み聞かせによる教育、などを施して何年も育児をしていたのである。 カニス・アイテールも年頃となり、性徴の兆しを見せるようになった。 その頃のカニス・アイテールは何をすればいいのか分からないが昂りは鎮まらない。奇声を上げる、自傷行為、性器いじりなどを繰り返すようになった。 ステラはそれを見ていられなくなり、村の者を適当に天狗攫いと称して連れ出すようになったのである。  「何人もの村の女をアイテールの前に差し出したよ! 時々は可愛い男の子も差し出したさ! どちらかと言うとあの子は少年愛者みたいだからねぇ! 運がいい子はアイテールのお相手をして村に帰ってきたさね! 運が悪ければそのまま強姦致死で終わりよ! 見ただろ? 礼拝堂の死体達を! アイテールは殴ったり首絞めたりしながら犯すからねぇ!」 義圭はそれを聞いた瞬間、反射的にステラの顔面を殴りつけた。 恐らくは紗弥加も…… それを考えると激しい怒りが湧き上がり、その原因を作った目の前にいる不倶戴天の敵に対して怒りの拳を叩き込まずにはいられなかった。
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