終章 緑成す秋

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 駅から雨翔村中央まではタクシーで10分、歩いて行けば30分から40分となる。今回の場合は村全体が霧に包まれて見通しが悪く慎重に歩かなければならないために余計に時間がかかる。 それでも義圭は駅から村中央までの距離を歩き抜いた。  村中央には人が集まっていた。と、言っても観光客ではなく大半が警察関係者や医療関係者である。 銀男は村から脱出した後に全てを公にした。始めは半信半疑だった警察も採掘場を見て驚き、更に生贄として捧げられた大量の人骨を見て驚いたと言う。 脱出後、義圭も入院することになり、事情を聞くために警察官が連日訪ねて来たのだが、その全てを銀男が引き受けて、義圭に負担をかけさせることはなかった。 義圭も病院のベッドで新聞やニュースで話題になっている「雨翔村大量人骨事件」の報道を見たのだが、自分がその中心にいたにも関わらずに他人事のような感じが抜けないのであった。  採掘場にあった大量の人骨は全て大学病院に移送後、年代測定が行われた。その人骨、古くは江戸時代初期のもの。最近のものはニ年前の遺体であることが分かった。 その後、礼拝堂に置かれた生贄として出された遺体を中心に人骨のDNA鑑定が行われた。かつて、生贄を差し出した家に遺骨を返すためである。 その鑑定結果は鑑定を担当した医師も困惑するような結果であった。これはあまりに不可解な上に酷すぎるとし、身元の特定だけをして、そのまま家に遺骨を届けるのであった。鑑定結果は一切村の者には知らされていない…… 身元が特定出来た遺骨が全て警察から各家に戻ってきたところで、村を上げての合同葬儀が執り行われた。義圭はその葬儀には参加していない……  義圭は村中央を抜けて志津香の家に入り、神棚封じの半紙を剥がし、神棚封じを解いた。そして、家の前に立ち一礼をした後、霧に包まれた村中央へと戻っていく……
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