終章 緑成す秋

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義圭が霧の中を潜り抜け、辿り着いた先は村の墓地だった。 義圭は秦家の墓の前に立ち、勿忘草を供えた。墓石の横を見て刻まれた名前を確認した。 秦志津香  秦仁志 秦紗弥加 刻まれた三人の名前を見た義圭は安堵するのであった。 「やっと、家族三人会えたんだ。良かったね」と、義圭は言いながら優しく墓を撫でた。霧に包まれ大気も冷たくなっているせいで墓石も氷柱のように冷たいが、義圭は構わずに墓石を撫で続けた。 その隣にある何も刻まれていなかった墓石には 多田知夏 と、刻まれていた。 「そっか、友達ともやっと一緒になれたんだね。お姉ちゃん」と、義圭が呟くと同時に何者かの砂利を踏み分ける足音が聞こえてきた。 正直、ここの村人とは顔が合わせ辛い。義圭は用件も終わったと言うことで村の墓地を去ろうとした。 その足音の主は遠目で義圭の姿を見つけ、駆け寄ってきた。 「おや、義圭くんじゃないか」 足音の主は銀男であった。その姿を見た義圭は笑顔で手を振り対応する。 「ご無沙汰してます。銀男さん」 「本当に久しぶりだね。君が退院してからだから2ヶ月ぐらいか」 「ええ」 「この2ヶ月、体の調子はどうだい?」 「体の傷も塞がって、奥歯が無いのにも慣れてきました。入院中に勉強が出来なくて、模試の順位がガタ落ちしてメンタル的にはボロボロです」 「それはもう勉強して取り戻すしかないよ。ところで何でこの村に? 君、村の共同葬儀にも来なかったのに……」 「三人の納骨が終わったって兼一と桜貝が手紙で送ってくれたんですよ。それで、手を合わせたくて。ずっとあの家も放置してて、神棚封じも解いてなかったことも思い出したので来ただけです。もう両方終わりました」 「それだけのだけのために東京から来たのか。お疲れ様です」 「いえ…… 銀男さんはどうして?」 「天狗信仰と隔絶された村の関係性のレポートの仕上げにね。予想以上のものが書けたよ。お墓に来たのは甥っ子さんにお世話になった礼をしたくて」 銀男も秦家の墓に手を合わせた。備えられた勿忘草を見て義圭の心の傷はまだ癒えないし、一生引きずるんだなと言うことを察するのであった。
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