終章 緑成す秋

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その時、一陣の風が吹いた。二人はその風で舞って飛んできた霧を頬に受け、肌寒く感じた。 「寒くなってきたね」 「東京はまだ暑いんですけどね」 「私達が村を出た日以降一日たりとも、霧が晴れた日が無いそうだよ?お米も育たなくなってしまった。あのお米も最新鋭DNA鑑定をしたよ。欧州のとある国…… 内戦で消滅した国でしか栽培されないお米だったよ。ステラさんが日本に来る際に持ち込んだ可能性が高い」 「天狗が本当に霧を起こしていたかもしれませんね。霧の件は偶然にしては出来すぎてます」 「本物の天狗がカニス・アイテールに憑依していたかも知れないね…… 私は立場的にオカルトは認めてはいけないのだが」 「生贄ももう無いでしょうし、このせいで村がずっと霧に包まれても知ったこっちゃないです」 「そうそう、霧と言えば…… 葬式に来ていたリゾートの社長さんに聞いたんだけど、ここに作るはずだった温泉の話も白紙になったよ。さすがにこんな霧深い村では避暑地にするには寒すぎるし、冬も陸の孤島だしね」と、銀男が言った瞬間に霧に加えて強い風が吹き出し、益々辺りの気温が下がってきた。目的も終わり、長居は無用。二人は墓地を後にすることにした。 「私、これからこの村出るんだけど車乗ってくかね? 駅まで…… いや、家まで送るよ」 「僕、東京帰るんですけど…… 名古屋じゃ真逆ですよね?」 「帰りは東名ぶっ飛ばせばいいだけのことよ。君のお母さんも軽くだけど診ておきたい」 「じゃあ、お願いします」  二人は墓地の出口に停めてある車に向かって歩き始めた。 その途中、義圭は足を止め踵を返し空を見上げた。雨翔村は霧が立ち込めているため、ひんやりとして寒い。 しかし、空は真夏の青空のように澄み切っている。 義圭は澄み切った青空を見上げ、紗弥加がいると思われる蒼穹(ところ)を見上げ、つぶやいた。
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