一章 天狗の仕業

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 義圭と紗弥加は二人と別れて家に帰った。家の前には軽トラックが数台集まっていた。居間では村の男衆達がパーティーの飾り付けを行っていた。 その男衆達は紗弥加を幼い頃から知っている者たちである。複式学級に通っていた紗弥加にとっては元々同じ教室で勉強していた先輩達であった。 「紗弥加ちゃん、お帰り」 「どうしたんですか?」 「いやぁね、村に咲く一輪の花の紗弥加ちゃんが村を出てくって言うからお別れパーティーをね」 男衆の一人がこう言いながら、村にはない大規模スーパーのぼっこりと膨らんだレジ袋を掲げた。隣町に車を出して買ってきたものである 「後からステラさんもここに来るってさ! 紗弥加ちゃんの好きなパエリア作ってくれるってよ!」 「あれならみんなで摘めるし、酒も進むしサイコーだぜ!」 「ケーキもあるぜ!」 「紗弥加ちゃんの為に車ぁ、疾走(はし)らせて、シャンパン買ってきたぜ!」 紗弥加はそれを苦笑い気味に微笑み返し、無言の返答を行う。 あたしの出立(しゅったつ)を祝うと言うよりは酒を飲むための盛り上がるきっかけが欲しかっただけだろうと、男衆達の企みを瞬時に見抜くのであった。 その通りだった。パーティーの様相こそしているものの、男衆達は皆酒を飲んでのどんちゃん騒ぎ、紗弥加に声をかける者はいなく、顔を天狗のように真っ赤にして酒を飲み明かすのであった。 宴もたけなわ。皆が帰った後の後片付けをしたのは紗弥加だった。その光景を見て義圭は不機嫌そうに頬を膨らませていた。 「どうしたの?」 「何だよあいつら。姉ちゃんが出てくのをキッカケにしてお酒飲んでただけじゃないか」 「そんなもんよ、大人って。この村、娯楽も無いし、お祭りも無いから、盛り上がる要素が無いから強引にでも理由作って盛り上がりたいもんよ」 「でも……」 「よっちゃんも社会人になって新人歓迎会とかに出ればわかると思うよ? 新人を歓迎する気なんか全く無くてお酒飲みたいだけの集まりよ、アレ。ま、あたしも出たことないから偏見なんだけどね」 「ははは」 そこに志津香が割り込んできた。 「明日の午前中にはお迎え来るんだから、二人共早く準備して寝なさい。後はお母さんやっておくから」 「「はーい」」 二人は床に就いた……
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