一章 天狗の仕業

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社の裏でガクガクと震える義圭。社の前を錫杖の音を鳴らしながら通り過ぎる何者か、義圭は体を奮い起こし、恐る恐ると社の前を見た。 そこには以前に秘密基地の前で見た何者かが歩いていた。今度は後ろ姿ではなく、横から見た姿である。 背は高い方だろう、義圭が見上げる社の屋根より高い。 社の屋根より高い位置に見える頭には、黒い小さな帽子が額に貼り付けられたように被せられていた。遠目で見て円形に思われたが、僅かに角度があるように見受けられた、義圭のいる社の裏からではそれはハッキリとは分からなかった。黒い小さな帽子のある額は髪がなく禿げ上がっていた。 その額は赤かった、真っ赤ではなく、日に焼けた感じの赤さである。 目は横顔故にその全景は分からなかったが、二重瞼でぱっちりとしていることだけは分かった、顎はサンタクロースのような白い髭が蓄えられていた、しかし、目や顎など問題はなかった、その真下の鼻は高いのである。 横顔だけでも特徴的ではあるが、100人の人間にその男の顔の特徴を一つ言えと言われれば100人のうち98人が「鼻」と答えるぐらいに高く目立つ鼻をしていた。当然、その鼻も赤いものである。 服装もこの前と同じ白装束、山伏が着るような修験装束である。白鳥の翼を思わせるような白く大きな袖を揺らすその姿は大きな体をより大きく見せた。胸の前には真白い装束とは真逆の黄色と橙色の中間ぐらいの色をした小さな梵天をつけた、襟巻きを思わせる袈裟が巻かれていた。 その姿を見て義圭は囁くような声で呟く。 「そんな馬鹿な…… あれ…… まるで……」 こうしているうちにも足音も錫杖の音も遠くなっていく。錫杖の音が遠くに聞こえる、全身の震えが収まった義圭はゆっくりと砂利道に出た。 「天狗……」 この科学万能の時代に天狗なんて非科学的でバカバカしい。そんなことを思いながら義圭はシャツの袖で額の汗を拭った。その際に目線は足元へと行く、足元には小さな穴、まるで杖でも突いたかのような丸い痕が一定間隔でつけられていた。 「ありえない」 義圭の心中は信じられない気持ちと、心から怖がる畏れの気持ちが渦巻いていた。 もしかして本当に天狗が天狗攫いを行ったのだろうか? それならば紗弥加も一緒にいるのでは? 義圭は錫杖の痕を追うことにした。 その一歩を踏み出した瞬間、義圭は肩を思い切り掴まれた。
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