一章 天狗の仕業

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「やっと見つけたよ」 「宮司さん……」 義圭を捕まえたのは響喜であった。義圭が大人たちから離れないことを約束して捜索隊に参加したのに離れたことを憤慨しているのが分かるぐらいに怒りの表情を見せていた。 「いなくなったと思ったら! こんなところで何してるんだ! どうしようもない(ボン)ズだ! 親の顔が見たいよ!」 義圭はシュンとして俯いた。その表情を見て、響喜はたじろきながら義圭の頭をいいこいいこと撫でた。 「君だってお姉ちゃん探すので一生懸命だったもんな? 言い過ぎた」 義圭は頭を撫でられながらも、下目遣いで響喜の目を見つめた。 「ごめんなさい…… でも……」 「ん? 何があったんだね?」 「僕見たんだ! 天狗…… 天狗様がここを歩いているのを見たんだ!」 それを聞いた瞬間、響喜は辺りに響くよう大きな声でがははと笑った。 そして、ぐいぐいとしながら頭を撫でる力を強くする。 「天狗様はみだりに人の前に姿を現さないものだよ? 私だってこの村は長いけど天狗様の姿を見たことはないよ」 「でも! その…… 山伏って言うの? 白い着物着て、顔が赤くて、鼻が長くて、シャンシャン鳴る錫杖って杖持った人が通りかかったんだ!」 「今日はもう志津香さんの家に帰りなさい。いいね?」 「違う! 僕、本当に天狗を見たんです!」 「わかったわかった。この辺りは私達で探すから、君はもうゆっくり休みなさい。ああ、そうだ! 帰り道に冷たいジュースを買ってやろう」 義圭はそのまま家に帰された…… それ以降は紗弥加がいなくなり、呆然自失としながらも懸命に捜索を行う志津香の家事手伝いをする夏休みを過ごすのであった。ヨロヨロと亡者のように力なく村中を歩き、捜索を行う志津香の姿を見ることは、子供ながらに不憫に思えてならなかった。
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