一章 天狗の仕業

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 時は流れ…… 翌年の夏を迎えた。義圭はわざと予備校の夏期講習の予定をギッシリと詰め、毎夏の恒例行事であった雨翔村への帰郷をやめていた両親も「紗弥加ちゃんがいないのに行っても仕方ないからねぇ」と言った感じで、帰郷を勧めることはしなかった。 兼一や桜貝は夏休みに義圭が来ないことを寂しがった。送られてきた手紙には「会いたい」と言う旨が書かれていたが、義圭はその手紙に返信をすることはない。 その翌年も似たような感じであった…… 二年が経過しても紗弥加発見の報は入らない。 義圭は志津香に電話をかけて近況を聞くも、弱々しい声がより弱々しくなり、蚊の鳴くような声になっていた。  紗弥加がいなくなってから三年目の夏を迎えた。義圭にとっては高校受験の大詰めであるために雨翔村に行くどころの話ではないし、三年と言う月日は紗弥加のことすらも頭の中から忘れさせかけていた。 義圭は予備校に行く準備をしながら家のリビングで麦茶を呷っていた。 そんな中、家中に響くような電話のコール音が鳴った。表示ナンバーは知らない番号、どうせ営業の電話だろうとし、義圭は無視を決め込むことにした。 たまたまこの日は留守番電話設定をしていなかったせいか、留守番電話に切り替わらずに延々と電話は鳴り続ける。 「今日は根性のあるセールスマンだな」と、呟きながら義圭は舌打ち気味に電話を取った。そこから聞こえてきた声は全く以て聞き覚えの無いものだった。低い男の声で、声変わりが終わったばかりで少しかすれたような少年の声だった。 「はい、もしもし?」 「よっちゃん? よかった…… やっと出てくれた…… 藤衛さんのお宅のお電話で間違いありませんよね」 「はい、藤衛はうちで間違いありませんが……」 「俺だよ! 兼一だよ!」 電話の主は兼一であった。東京の家の電話番号を教えた覚えもないのに、何故に電話をかけてきたのだろうかと首を傾げてしまう。 「ケンちゃん、久しぶりだね。どうしたの? 電話なんてかけてきて…… この家の番号教えた覚えもないんだけど?」 「今、村の病院にいるんだけど! 志津香さん、身内がオメーらしかいなくて…… 連絡も難しいから…… オメーが昔書いた年賀状にあった電話番号探して……」 「ちょい待ち、ちょい待ち、話が見えてこないんだけど? とにかく落ち着いて」 「……」 兼一は一旦黙った。電話口の向こうから僅かにすぅと息を吸う音が聞こえた。一旦深呼吸をして気分を落ち着かせていた。 「志津香さん、亡くなったぞ」 義圭は思わずに受話器を落としてしまった。コードにぶら下がる受話器からは兼一の「もしもし!? もしもし!?」の声が聞こえていた……
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