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昔話もそこそこに二人は葬儀場の中に入った。葬祭場の中に広がっていたのは、神道式の葬儀会場。これまで参加した父型の親戚の葬儀である仏教式の葬儀会場とは違う光景に義圭は驚いた。
「あれ? 遺影の上にデカイ神棚があるね」
「あの神棚の中に霊璽って言う木の板があるんだ。そこに志津香さんの魂が入るんだ」
仏教式の葬儀は故人を極楽浄土に送るための儀式である。仏教において故人は仏のもとで安らかに暮らすとされている。
それに対し、神道式の葬儀は故人を家に留めて氏神様とするための儀式である。神道において故人は家(一族)をいつまでも守護って下さるとされている。
神道式の祭壇の前では、真白な束帯を纏った男たちが何人も右往左往に動いていた。その中には響喜の姿もあった。それを見て兼一が義圭に耳打ちをした。
「宮司さんの兄弟みんな集まってくれたんだぞ。わざわざ遠くの天狗神社の分社してる宮司さんまで呼んでくれたんだ」
「伯母さん、ほぼ身内いなかったのに……」
「ここの宮司さんから言わせれば、村に昔からいる人達はほぼ身内みたいなもんだからな」
二人は葬祭場二階の待機室に向かった。その間際、祭壇にところどころ飾られている天狗の面と目が合った。
「天狗……」
「この村、天狗様の村なんだから仕方ないだろ? 天狗神社式の葬式なんだから天狗様のお面があるのは当然だろ?」
義圭は待機室奥で安らかに眠る志津香の前にちょこんと座り、美しく死に化粧のされた志津香の顔を見つめていた。
「志津香おばちゃん…… どうして急に……」
義圭は今にも泣き出そうになりながら、志津香の頬に触れた。氷のように冷たい頬を撫でながら、考えることは紗弥加のことであった。
「おばちゃんね…… お姉ちゃんのことずっと待ってたんだよ…… どこいるんだよ…… お姉ちゃん……」
志津香は夫も娘も天狗攫いによって失った。彼女の人生は二人を待つ人生だったに違いない。その挙句の果てが待ちきれずに亡くなってしまうという結末だった。
伯母ちゃんの人生はなんだったのだろうか? こんな甲斐がない人生で満足だったのだろうか? 冷たい頬を擦りながら義圭は心の中で何度も何度も志津香に問いかけた。
返事は、ない……
その横に座っていた兼一が優しく義圭の肩を叩いた。
「通夜際(仏教における通夜)まで時間あるから少し休んでな。よっちゃんは喪主じゃないとは言え、今回来ているちゃんとした遺族なんだからな? しっかりしてくれよ?」
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