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義圭はその言葉に甘え、通夜祭までの間に仮眠をとることにした。
しかし、眠りに就くことが出来ずに簡易ベッドの中でもぞもぞとすることしか出来なかった。何か冷たいものでも飲もうと待機室から出た瞬間、見知らぬ少女とすれ違った。
「あれ? よっちゃん」
「もしかして、桜貝?」
「もう、さくらって呼んでって言ってるでしょ?」
見知らぬ少女は桜貝だった。12歳の頃に比べて彼女はあまり変化がなかった。身長が少し伸びてセーラー服を纏っただけである。
例によって肌は僅かに日に焼けているせいか健康的な田舎少女と言う印象があった。
二人は葬祭場前のベンチに座り無料自販機のジュースを呷っていた。
「ほんと久しぶりだね。よっちゃん」
「ほんとだよ。三年ぶり?」
「紗弥加お姉ちゃんがいなくなってから、一回も来なかったよね?」
「うん、夏休みはずっと予備校行ってたし。いい高校行くためには中1の頃から勉強しないと」
「嘘。紗弥加お姉ちゃんに会えないから来なくなっただけでしょ?」
「そうかもね……」
「あたしらも手紙送ったけど、急に手紙返してくれなくなったよね? 紗弥加お姉ちゃんがいなくなる前までは文通みたいに手紙のやりとりしてくれてたのに……」
「正直、二度とこの村来る気なかったんだ…… だから二度と会うこともない友達だし、付き合いも切れるかなって」
「これだから都会者は…… 冷たいとかドライとか言われるんだよ?」
「その都会に憧れてたのはどこのどいつだよ……」
「憧れてませーん。あたしも来年から都会者ですー」
「さくらも村出るの?」
「うん。お父さんの知り合いのゼネコン関係の人が東京で女性専用マンション経営してるの。そこから通える高校に行こうかなって」
「そっか」
「この村からでも、麓の村の高校に通えないことはないんだけどね。村の人も車出してくれるって言ってくれてるんだけど、迷惑はかけられないし……」
そんな話をする二人の間に響喜が割り込んできた。それに気づいた二人はスッと立ち上がり、一礼をした。
「お久しぶりです。宮司さん」
「義圭くん、この度は……」
響喜はそう言いながら辺りを見回した、まるで誰かを探しているような見回し方であった。
「君のお母さん…… 友美恵さんは?」
「あ…… そ、それは……」
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