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義圭は言葉に詰まった。母・友美恵が頑強に我儘同然にこの村に来たくないと言っているとは言えない。
「ちょっと母も体調が悪くて……」
適当な言い訳だった。もう少し言い方考えろよ! と、義圭は自嘲するのであった。
「そうかね。久々にお目にかかりたかったのだが」
「母をご存知なんですか?」
「ああ、この村の子は、みぃんな私の子や孫みたいなものだからね」
響喜は二人の頭をいいこいいこと撫でた。二人は頭を撫でられて喜ぶ歳ではない。二人は訝しげな表情を浮かべてしまう。
「ごめんごめん、この村の子はみんな生まれると、私の元で祝詞を受けるからね。君たちだって生まれてすぐに、揺り籠で眠る君たちの前で私が大麻を振って祝福したんだよぉ? この村の子は、みんな赤ちゃんの頃から知ってるってことになるね」
響喜はこう言いながら、二人の前で大麻を振るような仕草を見せた。義圭は首を傾げた。
「僕、この村の子じゃないんですけど」
「いやいや、君はこの村の生まれだよ。聞いてないかね? 友美恵さんが結婚式をこの村で挙げたって。それから一年程この村にいて、君を産んだ後に東京に戻っていったんだ」
初めて聞く自分の出生地に義圭は心戸惑った。今まで自分の出生地は東京だと思っていただけに、響喜の言ったことは衝撃の言葉だった。
それを聞いた桜貝はケラケラと笑い袋のように笑っていた。
「何よぉ、今まで都会者気取りだったのに、あんたも生まれはこの村の田舎者じゃない! これからは田舎者同士仲良くしましょ?」
桜貝はケラケラと笑いながら、義圭の肩をバンバンと叩いた。
義圭は恥ずかしそうな顔をしながらその手を払った。恥ずかしさからか頭をぼりぼりと無意味に掻いてしまう。
「じゃ、今日の通夜祭と明日の葬場祭よろしくね」
そう言って響喜は祭壇の飾り付けに戻った。
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