48人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
志津香の葬儀は二日に渡り、しめやかに行われた。
義圭は親族でありながら、何もせずに普通の参列者のようにしていることに罪悪感を持っていたが、周りの「まだ中学生だから気にすることはない」の言葉に甘え、ほぼ何もせずに葬儀の間過ごしていた。
義圭が行ったことは、火葬場で着火ボタンを押すだけであった。
告別室には雨翔村で志津香と縁の深かったものが集められた。
響喜が最後の祭祀を奏上し、読み上げた。その間、告別室にいたものは皆、鼻を啜り感涙にむせっていた。
「最後のお別れをして下さい」
火葬場の係員が棺を開けた。顔はいっぱいいっぱい綺麗にしてもらったのか、髪の毛は過剰なまでに黒い毛染めがされていた。義圭が後から聞いた話であるが、雨翔村に行かなかった三年の間に志津香の髪はすっかり髪が白く染まっていたらしい。その白髪なぞ無かったかのように髪は真黒い。
顔も頬紅のおかげで頬に赤みが差し、唇も桃色の口紅が塗られ健康的にさえ見えた。
夏の度に遊びに行く度に優しくしてくれた伯母、その時の優しく微笑む顔がそこにはあった。
これでもう伯母の顔は見られなくなるのか。義圭は冷たくも柔かい頬を撫で擦りながら、目に涙を溜めていた。
今にも起き上がりそうな伯母、出来れば起き上がって欲しい。だが、それは叶わない。
義圭はカキツバタの花を志津香の胸元にそっと添えた。備え付けの花であったが、偶然にも義圭の思いと花言葉は一致していた。
幸せは必ず来る
「これからも、あの二人を待つんだろうな……」と、義圭は呟いた。
時間が来た。棺は閉じられ、係員が告別室の奥の部屋へと皆を導く。
貨物室のエレベーターのような無機質な扉が開けられた。それは炉の扉である。幾重にも並べられたローラーに棺が乗せられ、炉に入れられる。
「では、喪主の方、スイッチを押して下さい」
今回の喪主は日野村長である。日野村長が前へ出て、赤い点火ボタンに人差し指を伸ばす。
しかし、その指はすぐに曲げられた。そのまま点火ボタンを注視したまま、日野村長は義圭に尋ねた。
「このまま、私が押してもいいのかね? 義圭くん」
「……」
義圭は何も答えなかった。俯くその頭の中には夏の度に伯母に世話になった思い出が巡り回っていた。軒先で三人一緒にスイカを食べたこと、庭先で兼一と桜貝を招いて花火をしたこと、紗弥加と二人で少し遠出をして迷子になった際に探しに来てくれたこと、数え切れない思い出が走馬灯のように蘇る。
義圭は無意識に点火ボタンに人差し指を伸ばしていた。日野村長はおもむろに口を開いた。
「志津香さんとは我々の方が付き合いこそ長いが、直接の親戚である君が押した方がいいんじゃないかと思って言ったのだが…… 辛いなら変わるよ」
「お気遣い、痛み入ります」
義圭はそのまま人差し指を伸ばし、点火ボタンを押した。その刹那、点火ボタンの上にあった真っ赤なブリリアントカットを思わせるランプがこうこうと光り輝いた。
点火を証明するランプである。
二時間後、お骨は焼き上がった。火葬場の煙突からは志津香であった煙が立ち昇る、入道雲が立ち上る青空、うだるように暑い夏の日の青空に志津香は旅立っていったのだ。
義圭はそのようなことを考えながら、志津香のお骨を一つ一つ丁寧に拾い集めた。
その後はすぐに埋葬祭が執り行われる。墓地の場所は以前に紗弥加と共に墓参りに行ったところであった。奇しくも、秦家の墓は紗弥加が参拝した知夏と言う少女の墓の隣である。
最初のコメントを投稿しよう!