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志津香の葬儀が終わって数日…… 義圭は志津香の家で茫然自失とした毎日を送っていた。縁側で麦茶を呷りながら、志津香が旅立った青い空を見上げるだけの虚無にも等しい流れる毎日である。
このままではいけないと、持ってきた勉強道具をちゃぶ台の上に広げて勉強を始めるのだが、ロクに頭に入らない。勉強するための集中が一時間も続かなくなっていたのである。
そんなある日のこと、兼一と桜貝が家に遊びに来た。
「辛いの分かるけど、シャキってしたらどうだ?」
「そうだよ。もう何日も外出てないじゃない?」
桜貝はちゃぶ台の上に散らばったレトルト食品の容器をごみ袋に纏めていた。この数日、義圭は外に出ずに引きこもり状態となっていた。風呂には入っているものの、無精髭は伸び切り、顔だけなら中年の様相を見せるようになっていた。カップラーメンのスープがこぼれて、どことなく醤油の薫りがする参考書を見て桜貝は顔を歪めてしまう。
「この参考書、捨てていい? スープで表紙駄目になっちゃってるよ?」
「いいよ」と、義圭は無気力な声で返答した。桜貝はやれやれと言った感じに参考書をポイとごみ袋の中に投げ捨てる。
それを見た兼一は誂うように義圭の頭を叩いた。
「何だよ、勉強道具持ってきたのかよ。難しそうな本だな」
「うん、受験…… だからね……」
「別に勉強なんていらないじゃん」と、兼一。
桜貝はそんな兼一の頭を軽く叩いた。
「アンタが行く高校は隣村の名前書けば合格させてくれる学校でしょ? よっちゃんが行くような頭いい高校と一緒にしちゃダメよ?」
コツコツと振り子の音を刻む柱時計。昼の十二時になり、ぼーんぼーんと低い音が家の中に響いた。その音を聞いて義圭はスッと立ち上がり、台所の水屋箪笥の戸を開けた。水屋箪笥の中には、ちょっとした調味料しか入っていなかった。
「飯買って来ないとな……」
桜貝が先程まで纏めていたゴミ。それを纏めるのに使っていたのはコンビニエンスストアのレジ袋であった。
「またコンビニ行くの?」
「仕方ないだろ? この辺りロクに食べるとこないんだし」
「ステラ婆ちゃんの店、行かないの?」
「コンビニの方が近い」
この無精者め。二人は義圭に対して呆れるのであった。
そんな中、兼一はふと閃いた。
「そうだ! よっちゃんこの村三年間来てなかったでしょ? この村、この三年で結構変わったんだぜ? ステラさんとこに行くついでに案内してやるぜ?」
「別にいいよ」
「そんなこと言わないで行きましょうよ?」
こうして、義圭は兼一と桜貝と共に「渋々ながら」村の散策に出る羽目になってしまった……
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