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三人はステラのいるしょうせい屋にて、レトルト食品を購入していた。
桜貝は買い物カゴに肉野菜やお菓子などを詰め込んでいる。
「俺、調理したくねぇんだけど」
「ダメよ。レトルトばっかりじゃ栄養偏るわよ?」
「腹さえ膨れればなんでもいい。って、何を勝手にお菓子入れてるんだよ」
「いいじゃないの。久々に皆で食べましょうよ? まだあそこあるんだし」
桜貝は秘密基地にて皆でお菓子を食べながら、ワイワイガヤガヤと盛り上がるつもりであった。
「仕方ねえな……」義圭はステラのいるレジに買い物カゴを乗せた。
ステラは義圭の顔を見た瞬間、驚いたような顔をした。
「おんやぁ、久しぶりやね? 志津香さんの葬式以降顔見ねぇから、もう東京さ帰ってまったと思ってたよ?」
「聞いてよ、ステラお婆ちゃん…… よっちゃんったらね……」
桜貝はステラに義圭の自堕落な生活の説明を行う。
直接見てないくせに何を勝手言ってるんだと義圭は訝しげな顔をしたが、自堕落な生活に間違いはない為に反論は出来なかった。
ステラもそれを咎めるようなことは言わない。
「そうやねぇ、アンタの世話ァしてくれた志津香さんも亡くなってもうたからねぇ…… それにあの家は旦那さんも娘さんも…… 気持ちは分かるよぉ」
ステラは首をぐいと動かし、自分の背後を見た。その目線の先には閉じられた仏壇があるのだった。
「親しい人がいなくなるってぇのは…… 悲しいことだからねぇ、それは時間が経つことでしか癒せないからね? 大目に見てお上げ、桜ちゃんや」
「でも……」
「あんた達は実の兄弟みたいに仲いいからねぇ。こういう時こそ支え合わないといかんよぉ……」
ステラは義圭の会計を終わらせた刹那、スッと立ち上がり、店内にある肉と野菜を鞄に詰め込んだ。
「あれ? どこか行くの?」
「配達だよぉ、この村も爺さま婆さまが増えてきたからねぇ。ここまで来るのも苦労するような出不精ばっかりになってまったよ。だから、配達サービスなんてものを始めたんだよ」と、言いながら買い物カゴに食料品を詰め込んだ。
「僕もその爺さん婆さん等と変わらない出不精ですね……」
義圭はしょうせい屋に来て初めて微笑みを見せた。それどころか、志津香の葬儀が終わって以降初めての笑顔である。
その笑顔を見たステラは手を伸ばして義圭の頭をいい子いい子と撫でた。枯れ木のように細く頼りない指であったが、義圭はそれに温かくも優しさを感じていた。
三人はステラと共に店の外に出た。ステラは店の戸に鍵を掛け、【只今、配達中】の札をかける。
「あれ? 鍵かけるんだ。田舎なのに」
田舎では家に鍵をかけないとされている。無警戒と言うよりは、お互いに顔見知りであるために信頼していると言った方が良いだろう。
この村においては商店でさえもこの常識に置いて鍵をかけることはなかった。義圭は何度もこの村に来ているが、ステラがこの戸に鍵をかけるのを見るのは初めてのことであった。
「ああ、昔と違って余所者が増えたでな」と、言いながらステラは首をくいと動かした。その目線の先には山師の家族が暮らす集合団地があった。
「ここ数年で野菜の無人販売所が全部なくなってしもうた。余所者はみぃんな金も入れずに野菜持ってってまうんや」
野菜の無人販売所は「盗まれない」と言う信頼があってこそ初めて成り立つものである。
この雨翔村も外部から人を入れる前は盗まれることもなく、無人でも缶を入れてくれる人しかいなかったために無人販売所も成り立っていたのだが、外部から人が大勢住むようになってからは金を入れずに野菜を持っていく者が増えるようになっていた。
世知辛い話である。
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