ニ章 天狗様

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 ステラと別れた後、三人は畦道を歩いていた。すると、巨大な天狗の面の付いた建物が見えてきた。当然、三年前にはなかったものである。 「あれ? 新しく出来た建物よな? デカい天狗の顔までつけて……」 「雨翔村資料館…… っても、村にあるクッソ古い農具とかを硝子箱(ガラスケース)に入れて展示してるだけなんだけどな」 「なんかつまらなそう……」 「昔の米作る時に使ってた千歯扱きとか、脱穀機とかなー。うちも蔵の肥やしになってたの提供したよ」 「ふーん」 「歴史的価値がありそうなものは天狗様の面とからしいぜ?」 「何? 天狗神社からも色々提供しているの?」 「勿論、この資料館の資金の何割かは天狗神社が出してるんだぜ」 「当たり前だけど、承認したのはうちのパパだけどね」 「余所者(ヨソモン)のガキの社会科見学でしか行ったことねえよ」 「あれ? まだ複式学級のままなの?」 「違う違う。余所者(ヨソモン)子供(ガキ)連れてきたおかげで、一クラスに十人もいないぐらいだけど、六学年揃うぐらいにはなった。その分、ちゃんと先生も増やしたんだぜ?」 「そうなんだ」 「ついでに、村にあった民俗資料の本? それを全部纏めて図書館もくっつけてる。クーラーガンガン効かせてるから、村の爺さん婆さんの憩いの場にしかなってねぇけどな」 「何にもない村だったのに、色々出来たんだ」 「一応来年から町になるからね。パパもよくやるわ、お米と林業だけでここまで村おこし成功させるなんて」 そのようなことを話しながら、畦道を歩き続ける三人。義圭は建築中の家がいくつも見受けられることに気がついた。 「あれ? ここ空き地じゃなかったっけ?」 「余所者が家建てるんだよ。数年後にはこの辺りの空き地全部家で埋まるんじゃないか? 米農家始めようって夢見者(ドリーマー)もいれば、木の仲介業者(ブローカー)が続々とこの村に入ってきてるからな」 村が切り崩され、町へとなる姿を見せつけられた義圭は突然切ない気持ちになった。 幼少期の夏よりずっと志津香の家に預けられていた時より親しみのある田舎。それが変わっていくのは仕方が無ないことなのだが、この村での思い出の風景が消えることに悲しみを覚えた。そして、その横にはこの二人と、まだ小さかった自分の手を引く紗弥加の姿があった。 この村の風景が失われることは、紗弥加や兼一や桜貝と過ごした思い出までもが失われるのではないかと言う恐怖に義圭は襲われるのであった。
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