ニ章 天狗様

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畦道が途切れ、舗装のされていない砂利道に入った。三人は砂利道を踏みしめ、歩を重ねる。すると朱鴇色に輝く鳥居の前を通りすがった。 天狗神社である。義圭は三年前のことを思い出し、全身を震わせながら歩を止めた。 「どうした?」 「いや…… ちょっと……」 三年前に天狗を見たのもこの近くだった。義圭は恐怖に震えながらも足を動かす。しばらく歩き続け、辿り着いたのは注連縄(しめなわ)で道が塞がれた行き止まりであった。 「あれ? ここまだ先進めたよね?」 「二年前に宮司さんが唐突に道塞いだんだよ。ほら」 注連縄(しめなわ)の端には看板が建てられていた。赤茶けた古さの感じる白地の看板には この先、天狗神社の私有地につき 立ち入りを禁ズ と、だけ書かれていた。 「この先にあるクヌギの木に行けなくなったのは痛いな」 「そうそう、夜中の内に蜜塗って朝になったら、よりどりみどり取り放題になるのよね」 「俺、それ取りに行って迷子になったんだけど」 あの時、義圭が迷子になったのは朝に昆虫採集に出たからであった。 そのことを笑い話にして三人は大笑いをした。天狗神社の裾にある森に三人の笑いが木霊する、その際に首を僅かに上に傾けた義圭の目に森には似つかわしくないものが入った。 「防犯カメラ?」 注連縄の端に立てられた立ち入り禁止の看板。その上には四角いカステラの箱を黒く塗り、黒い真円を描く目玉のようなレンズを付けた防犯カメラがじっと三人の姿を見つめていた。 「乗り越えようなんて考えるなよ?」と、兼一が義圭に釘を刺した。 「考えねーよ」 「二年前に蜜塗りに行こうと中入ったんだけどな。後から宮司さんが家に来て顔真っ赤にして怒ったぐらいだからな。後は家族三人、宮司さんに米搗き飛蝗のようにペコペコ頭下げて謝った後、天狗神社の社の前で土下座させられたよ」 「天狗様が神域を広げたとか?」 「そうかも…… しれないね」 三人は今来た道を戻るため、踵を返した。その通り道には天狗神社へと続く石段があった。 その石段を見た桜貝が唐突に言い出した。
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