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「石段登りやろうか?」
「おいおい、ガキじゃねぇんだから」
「たまには良いじゃないよ、3年前はあたしらよくやってたじゃない? 12歳でやるのも、15歳でやるのもよく変わらないわよ」
やれやれ…… 義圭は渋々と石段登りをやることに同意した。兼一も童心に帰りたいのかグーチョキパーの素振りを何度も行っている。義圭はそれを見て「図体はデカくなっても中身はあんまり変わってないな」と微笑ましく思うのであった。
石段登りの最中、先程も会ったばかりのステラとすれ違った。買い物カゴはカラになっていた。配達先は天狗神社だったのだろうか? 義圭はステラにペコリと一礼をした。ステラも義圭の姿に気が付き、ペコリと頭を下げた。
石段上りの勝負は義圭が勝った。最上段に辿り着いたところで、鳥居をくぐり、一礼し天狗神社の境内に入った。
そこに広がっていた光景は三年前に皆と参拝した時と一切変化がなかった。
神社を丸々囲むような鬱蒼とした森、石畳の横に等間隔で置かれた天狗の石像、手水舎に立つ天狗の銅像も手入れがされているのか三年前と同じく輝いている。
あまりの変化のなさに義圭は「ここは三年前か」と驚いた。義圭はこれまでの村の変化に浦島太郎気分を味わっていただけに驚くのは当然である。
変わっていたことと言えば、手水舎の天狗の銅像の足元にある龍の蛇口の色が青銅色に変色していたことぐらいである。
義圭が鳥居をくぐった先で驚いていると、二人が追いついてきた。兼一は呆然とする義圭の肩をとんとんと叩くと、それにより義圭は我を取り戻した。
「どうした?」
「ここ、あまりにも変わりがなくて」
「そりゃそうだろ。毎日誰かしらが掃除してるし」
「にしては、手水舎の龍が錆びてるね? 黒龍だったのが青龍に変わってる」
「お前、細かいことに気がつくな。俺、この村の住人だけど言われて初めて気がついたぜ? 多分だけど、出てる水のせいだろ? ここの地下水ミネラルだかアルカリの数値が高いことが分かったんだ」
「この水がねぇ」
義圭は喉が乾いていたため、柄杓で水を飲んだ。確かにカルキ臭い水ではなく、冷たく飲みやすいミネラル水の味がした。この村で食べる天駆米が美味しい理由もこれのおかげかもしれないと考えた。
桜貝が兼一の説明に補足を入れた。
「パパから聞いたけど、ここの地下水の成分は温泉に近いんだって。ちょっと前にこの町の水道で使ってる汲み上げ水の成分見て貰って検査したの」
「何? お米と林業で村おこしが終わったら、今度は温泉で町おこし? もうここ田舎じゃなくなっちゃうね」
三人は石畳を踏みしめ、社の方へと向かった。三年前と同じよう、申し訳程度の賽銭を入れて、お参りをするのであった。
ぱんぱん 二度、柏手を打ち、三人はそれぞれの願い事を述べた。
「野球がうまくなりますように。あと、うちの田んぼの豊作をお願いします」
兼一は三年前と願いも変わらないか…… 義圭は目を閉じ、手を合わせたまま「くくく」と笑いをこらえた。
「うちのお父さんが町長になれますように」
桜貝も願いは変わらない。
二人とも外見こそ変わったが、中身は変わっていないことに安心感を覚えるのだった。
「……」
義圭は何も言わずに手だけを合わせていた。
「よっちゃん、願い事は?」と、桜貝。
「ない…… かな? あっても三年前の願いと変わらない」
それを言う義圭の目は社の戸の奥深くに見える天狗の面に向けられていた。
その目はどこか遠くを見つめるような悲しい目をしているのであった。
「よっちゃん…… まだ諦めてないのか」と、兼一が言う。桜貝は「空気読め馬鹿!」と言いたげに睨みつけながら兼一の脇腹を肘で小突いた。
それに気がついた兼一はバツの悪そうな顔をしながら義圭に頭を下げた。
「ごめん……」
「いや、いいんだ。引きずってる俺も俺だし……」
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