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思わぬ邪魔が入ってしまった…… 義圭がそんな事を考えていると、腹がぐーと鳴った。
義圭は秘密基地で軽くお菓子を食べて以降、何も食べていなかった。そのようなわけで図書館内のレストランで腹を満たすことにした。
田舎の図書館のレストランの割にはメニューが充実している。ガラスケースに並べられた食品サンプルの群れ、カレーライス、ハヤシライス、醤油・塩・味噌・チャーシュー・唐揚げと痒いところに手が届くようなラインナップのラーメン、きつね・たぬき・わかめ・蕎麦にうどん、カツ丼・ソースカツ丼、親子丼。よりどりみどりであった。
こんな田舎の図書館のレストランに充実させる意味はあるのだろうかと義圭はガラスケースの前で腕組みをして考え込んだ。メニューを決めた義圭はレストランの中に入った。
店員は顔は知っているが名前は知らないおばちゃん、村に昔から住む者である。
外見は恰幅が良く三角巾に割烹着とステレオタイプの食堂のおばちゃんスタイルだった。
「あら、よっちゃんじゃない。この度は……」
このような言い方をすると言うことは、志津香の知り合いだったのだろうか?義圭は適当な相槌を返した。
「いえ…… この度は伯母がお世話になりまして」
「志津香さん、本当に大変だったわね」
「ホントですよ……」
「あたしみたいに諦めきれずにずっと待つよりは良かったかもしれない」
「え?」
「あ、ごめんなさいね。志津香さんの娘さんと同い年の子供がいてね、天狗様に連れて行かれたのよ」
義圭は紗弥加と同い年で天狗攫いに遭ってしまったと言うその「子供」に見当がついていた。
「ひょっとして、知夏ちゃんって人の」
「あら、知夏を知ってるの? 知夏はあたしの娘よ」
三年前の墓参り、その時に紗弥加が参った墓。それこそが知夏の墓であった。
「ああ、あたしは多田千冬(おおた ちふゆ)。あなたのお姉ちゃんの紗弥加ちゃんのこともよく知っているわ」
この人が名前の無い墓を作った人か。この人も娘を失って待ち続けている人、その人生はどのようなものか、義圭には想像がつかないものであった。
残酷なようだが、ここで身の上話を聞いても仕方ない。付き合う義理もない。義圭は注文に入った。
「醤油ラーメン」
千冬は目にわずかに光る涙を拭い、醤油ラーメンの調理に入った。
レジの向こうから見える千冬が行う調理風景は至って単純、業務用の醤油でスープを作り、銀の容器に入れた薬味を振り、深い湯切りでサッと茹でただけの簡単に作るラーメンそのものであった。
千冬が醤油ラーメンを義圭に差し出すと、小声で言った。
「メンマとチャーシューおまけしといたよ」
出会って数秒の知り合いにおまけありがとうございます。義圭は黙礼し、窓際のテーブルに座った。
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