一章 天狗の仕業

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「でもさぁ…… この村の神様なんでしょ? 神様が子供さらうもんかなぁ?」 兼一が義圭の口から手を離した次の言葉がこれである。こうして、疑問に思うことすらもこの村では禁忌であるため、再び口を塞いだ。 「馬鹿! 天狗様は悪いことをしねぇんだ!」 「お願いだから天狗様に対して変なこと言うのはやめて! でないとあたし達が怒られちゃう」 叫ぶ二人の目線は襖の向こうの兼一の母親に向けられていた。義圭の言葉を聞かれていないかどうかを気にし、怖れている様子であった。 三人は宿題(ノルマ)を終え、遊びに出ることにした。 遊ぶと言っても、雨翔村には娯楽施設と呼べるものは田畑の中央にある中年向けのスナックと、村唯一の雑貨屋と、駄菓子屋ぐらいしかない。こんな状態のためか雨翔村では、隣町に行くための車が生活必需品(マストアイテム)となっている。 「今日も虫取りに行く?」 「もう虫は必要な分あるし、いらない」 「川で泳ぐか?」 「毎日じゃないか。それに今日はまだ霧出てる。寒いぜ?」 今朝からの朝靄は不思議なことに未だに残っていた。もうすぐ昼食時にも拘らずに外は寒い。 「釣り行こうか?」 「あたし嫌よ? 釣り竿垂らしてボケーッとしてるだけのどこが面白いの?」と、桜貝は訝しげな顔をしながら述べた。 「女には分からねぇんだよ。魚がぴくんって引いた瞬間の嬉しさと、そのために何時間でも待つことが楽しいんだよ」 「ごめん、俺も正直釣りは……」と、釣りに行くことを拒否する構えを見せた。 「これだから都会モンに女ってやつは……」 兼一は呆れたような顔をしながら二人に手招きをした。 「じゃ、秘密基地の掃除でもするか? 義圭ちゃんが来てからずっと掃除してないし」 「え? 去年作ったアレ掃除してなかったの?」 「そうだよ、俺ら二人義圭ちゃんが来ないと、基本あそこに行くことも無いし」 「暇な時にちょいと掃除しといてくれよ。地元民なんだし」 「忙しいんだよ、俺らも」 「ねぇ?」 こんなド田舎の子供が何を忙しいと言うのだろうか。と、義圭は疑問に思った。 「とりあえず掃除しよう。夏の終りから一年間足踏み入れてない。多分、埃とかすげぇだろう」 「嫌よ、あたしのおニューの服が汚れちゃうじゃない」 「なぁに言ってるんだよ、毎回新しい服を都会から取り寄せては田植えや稲刈りの授業でどってーんって倒れてパーにしてるじゃないか」
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