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「その通りですわ。今の村長さんもノリノリですわ」
「日野のおじさんの村起こしも大成功ですね」
「ん? 村長をおじさん呼びってことは、日野さんのお知り合いで?」
「えっと、娘さんと幼馴染なだけです」
義圭がそれを言った瞬間、大作は首を傾げた。
「はれあれ? この村の田舎臭い子供とは佇まいが違いますなぁ? ん? 日に焼けてもないし、THIS IS 都会っ子ですってオーラがプンプン出てますなぁ?」
「あぁ、わかります? 家は東京で、母がこの村の出で、毎年夏の間だけはこの村にある伯母の家で世話になってたんですよ」
「どーりで、どーりで、この村の子とは違うなって思ったんですわ。この村の子はみぃんな儂みたいな余所者には近づこうともせえへんのですわ」
またもや出てきたこの村の排他性。林業のためにこの村に来た者たちはうまくやって行けているのだろうか? 義圭は心配になった。
「どの辺りに温泉作るんですか? この辺り、田畑ばかりで下手に掘ると村の人の反感買いますよ?」
「そうなんですわ~ 村長さんはボーリング調査どこでもやってくれって言ってるんですわ~ でも、村の住人さんが掘るな掘るなーって土地もままならないんですわ」
「急に温泉作るから土地くれって言われても戸惑いますよねぇ……」
「やーっと掘れる箇所見つけたんやけど、出たのも温泉やのうて地下水。水質はええからボイラー繋げて温泉にすることも検討ですわ」
「地下水って……」
「せや、たまたま採石場跡地にぶつかってしもうて。そこ流れる地底湖の水やったんやろな」
「採石場跡地って……」
「この村、元々は全国各地のお城さんに石垣届けとった村やで? 知らんかったか?」
「はい」
「江戸時代あたりには天狗礫の大本って言われるぐらいには石で栄えとったんやで? ここの石も天狗様に肖って天狗石って呼ばれるぐらいになったんや」
天狗礫。どこからともなく石が降ってくる現象。幾星霜の時代を超えた令和の現在でも、今尚、原因不明とされている。
また、天狗絡みか。義圭はうんざりしたような顔をした。
「城の石垣には花崗岩…… 御影石って言った方がええやろか? ここで使う天狗石よりも硬くてええ石でな。より良いものが出てきたらそっちに切り替えるのは今も昔も同じ、儂だってそうする。この村が天狗石で栄えた時代は終わってまって、採石場も閉鎖、入り口も閉じてまったたせいで、誰一人として行くことは出来ないと言う訳や、今やその名残は資料館に残ってる石の加工に使っていたハンマーやノミ、石の運搬に使っていた丸太ぐらいしかありゃあせん」
「へー、石で栄えてたんですか。勉強になりました」
「ウチで店舗を出す土地のことは徹底的にリサーチするのがモットーやからな。この図書館には連日来て儂自らがリサーチをしとる」
大作はエッヘンと言った感じにドヤ顔をした。部下にリサーチさせればいいのに、自分から行うところ、上が動かないと下も動かないことをよく分かっている良い社長だと言う印象を義圭は持つのであった。
そのような話をした後、二人は食事を終えた。
「すまんかったのう。こんな田舎のリサーチ結果の話なぞ、若い子には退屈だっただろう?」
「い、いえ…… 楽しかったです」
「多分だが、来年ここが町になる頃には温泉も出来ていると思うんや。君がまたここに来たら、今渡した名刺を受付に見せたりぃ? ぴちぴちした美人さんのマッサージと一食分ぐらいはサービスしてくれると思うよ?」
「あ、ありがとうございます」
とは言うが、義圭の頭の中では来年、いや、金輪際この村に来る予定はない。この名刺は近所にある同じチェーン店の銭湯で使おうと考えていた。
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