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天狗。日本にこの言葉が伝わる前の古代中国では「天狗」と言う言葉は凶兆を伝える「流星」の意味であった。流星落下時の衝撃音が狗の遠吠えに似ていることから例えられて、狗の姿で
「天」を駆ける「狗」として、「天狗」の名前となった。
それが日本に伝わり、空から下りてくることから、羽の生えた人「鳥人」の姿で描かれるようになった。ここから中国の天狗感である狗の姿は消え、日本独特の鳥人の姿の天狗感が生まれた。
日本に伝わった当時、村の子供が鷲や鳶や鷹などの猛禽類に攫われる事件が多発していた。
実体もなく忍び寄り、子供を攫うその様が「鳥人」が攫っているように思い思われ畏れられたことが「天狗攫い」の始まりと言われている。
鳥人の姿も鼻が高いものになったのも、古代日本より行われている伎楽の伎楽面の鼻が高かったことと、猿田彦伝説の流布が影響されている。
出立が修験者風なのは、天狗も修行を行ない神通力を使えるようになったからだとされている。ただし、その神通力は邪法とされており、その罪で天狗は地獄に堕ちて「鬼」になるとされている。
流星落下時の衝撃音も、狗の遠吠えよりも、太鼓を激しく叩く音に似ていたために「天狗太鼓」「天狗囃子」などと言った天狗出現の際のBGMのようなものへと改変されてしまった。
ここまで銀男が淀みなく淡々とした口調で話したところで、義圭は一旦話を止めさせた。
「大きな鳥が子供攫うんですか? にわかには信じ難い話ですね」
「今と違って、空は猛禽類のような鳥の天下だった時代だったんだよ? 不思議でもなんでもない」
「攫われた子供は?」
「鳥葬で検索をかけたことはあるかね? 南アジアの辺りは未だに続けている国が多いんだけど」
「ない…… です…… でも『鳥葬』って言葉から何となく想像はつきます」
「検索するのはやめておきたまえ。エロ画像を探していたら、グロ画像を見てしまったのと同じようなものだ」
銀男は再び天狗攫いの話に入った。
天狗攫い。言葉の通り、天狗を原因とした人攫いのことである。天狗を蔑ろにすると、山より実体もなく飛来し、人を攫うとされている。
だが、その実態は悪質な聖職者の性的欲求を満たすための誘拐であったとされる。
人間誰しも、性欲には打ち勝つことは難しい。聖職者の立場であれば、完全に禁欲でいることが求められるために余計にである。悪質な聖職者は全国各地の山を行脚している最中に性欲に負け、道中の村から人(女、子供)を攫い性欲の捌け口にしていたとされる。
「いきなり神隠しのオカルト的な話から犯罪的な話になりましたね」
「昔の修験者は同じ装束を纏わせた子供を連れていたと言う。その子供の出本は……」と、銀男が言いかけた時、図書館内に館内放送の蛍の光と、アナウンスが流れてきた。
「本日は雨翔村歴史資料館への来館、誠にありがとうございました。当館は間もなく、閉館時間となります、本の貸し出しをご希望の方は急いで受付までおいで下さい。お忘れ物のないようにお荷物の確認をした上でご退館下さい。繰り返します……」
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