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「え? ちょっとまって? 田植えや稲刈りが授業であるの?」と、義圭は驚いた。
「んだ。普通じゃないの?」
すると、桜貝がちがうちがうと言うように手を振る仕草を行った。
「この村はお米の名産地だから特別なのよ。ま、実際は稲刈りの人手として猫の手…… いや、小学生の手も借りたいだけよ」
「確かに、この村のお米美味しいよね」
「あたしら、毎日食べてるからそう思わないんだけどね」
天駆米、雨翔村特産の米。他の地域で生産される米とは違い、丸みがあり麦のような弾力を持ちながらも瑞々しい米である。麦のような弾力を持つことから「麦の亜種」と言う扱いだったが、遺伝子検査で正真正銘の米と言うことが証明され、雨翔村より全国に輸出される程の人気米ブランドの名を手に入れたのである。
今や、雨翔村の産業は天駆米が支えていると言っても過言ではない。
「そうだよねぇ。この小さな村でしか出来ない米が、全国でもトップクラスに人気のお米だもんねぇ」
「他の地域とかに稲持っていけばいいのに…… 全国で作らないのかねぇ? そういうの」
こんな有名な米なら全国各地に産地を広げてもいいのに、それが行われないことを義圭は疑問に思った。
「なーんかしらんけど、何年も前に農水省とか農協のおエライサンが村に来て稲持ってったけど、他の地域とかだと上手く育たねぇんだ」
かつて、天駆米の種子は様々な地域に持ち込まれ、田植えをしたのだが、いずれも秋を迎えることが出来ずに枯れ果ててしまった。
雨翔村と同じ気候条件の場所に持ち込んだ稲すらも枯れたことにより、天駆米は雨翔村のみでしか育てられないし、育たないと言うのが農業関係者による定説となっている。その原因を長年農業関係者が懸命の調査をしているが謎は解けていない。
三人が秘密基地に行こうとスッと立ち上がった瞬間、兼一の母が襖を開けてきた。その手にはタッパーに詰め込まれたおにぎりが持たれていた。
「こーらぁ、ガキどもぉ? これから遊びに行くんやったら、これ持ってきぃ」
兼一の母はタッパーを兼一に差し出した。兼一はタッパーを受け取り、愛用の革製の鞄に放り込む。
「かーちゃん、今日の中身はなんだ? ま、聞かなくても分かってるけど。たまにはイクラとかツナマヨとか入れてくれよ」
兼一の母は兼一の額に軽くデコピンを放った。ぴぃーんと言った音が部屋に響く。デコピンを食らった兼一の額に仏像の白毫のような痕がつく。
「いてぇ」
「うちで作るおにぎりは塩100%だよ! 中身なんかねぇよ! この村のおにぎりは塩おにぎりって相場が決まってるんだよ!」
そのやり取りを見て桜貝はくくくと笑った。
「そうよ。うちの村にあるド田舎の雑貨屋がイクラとかツナの缶詰なんて洒落たもの入荷するわけがないじゃない?」
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