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「どうしました?」
「結束バンドをキツくしすぎてしまった。これでは短すぎる」
「ハサミ、持ってきます。どこだったかな……」
義圭はハサミを探すために小物が入った引き出しを開けるが、なかなか見つからない。
「すいません、この家、夏の間しか来ないんで…… 何がどこにあるとか把握してないんですよ」
「手間かけさせたね。自分で外すからそれには及ばない」
銀男はノートパソコンの天板を閉じた。そして、USBコネクタからマウスを外し、天板の上に結束バンドの接続ヘッド機構を思い切り叩きつけた。すると、結束バンドは ベキン と、言う何とも情けない音を立てながら外れた。
「実は瞬間的な衝撃に弱いんだよ。結束バンドって」
「そうなんですか。勉強になりました」
義圭はノートパソコンの天板についた傷の方が気になっていた。ノートパソコンの天板にはスーツケースに貼るようなシールがベタベタと貼られていることから「余り気にすることでもないか」と、思うのであった。
入浴を終えた義圭は銀男のいる居間に戻った。銀男はレポートでも書いているのか只管にキーボードを叩いていた。声をかけるのも悪いと思った義圭は来客用の布団を居間に置いておいた。それに気がついた銀男が振り向いた。
「ああ、すまないね。布団は自分で敷くよ」
「じゃ、お休みなさい」
義圭は自分の寝室に行こうとした。だが、足は寝室には向かずに紗弥加の部屋へと向かっていた。
三年前と変わらぬ紗弥加の部屋で呆然と一人立ち尽くす義圭。朱いスイートピーの花柄をしたベッド、その横には年季の入った勉強机が一台、あんなことが無ければベッドも机も義圭の家に運ばれていたのだろう。
ちなみに紗弥加が入る予定だった東京の義圭の家にある空き部屋は今も物置のままである、紗弥加が来ることが決まって、友美恵が掃除こそしていたのだが……
そんなことを考えながら義圭は紗弥加のベッドに飛び込んだ。かつては紗弥加が全身を預けていたこのベッド、紗弥加の香りがするだろうと枕の匂いを嗅ぐが何の匂いもしない、生前に志津香が「紗弥加がいつ帰ってきてもいいように」と洗濯をしていた証左であった。
枕に顔を埋めたまま首を動かし見えるのは暗黒に包まれた田畑に満天の星空が見える窓、その窓には紗弥加がかつて着ていたワンピースが掛けられており、それにはピンクのチェックシャツが羽織られていた、義圭が三年前の早朝に迷子になった時に紗弥加が羽織らせてくれたものである。
それを見ているだけで瞼の裏に浮かぶ紗弥加の姿、その姿は涙で滲み、目から涙が溢れ出し、枕を濡らしながら大泣きをするのであった。
「どこ行っちゃったんだよぉ…… お姉ちゃん……」
泣き疲れた義圭はいつの間にか眠りに就いていた……
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