三章 天狗攫い

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「なんだよ、これ……」 義圭が出た先は、広場だった。いつになるかは覚えていないが、遠い昔に両親とプロ野球観戦に行った時の球場を見た時と同じぐらいに広大なものだった。洞窟の奥であるから、単なる岩がゴツゴツしただけのものかと思われるが、そうではない。建物の中を思わせるような平たい壁、その真下には岩を削って作った階段、煉瓦のように綺麗に積み上げられた段差の階段。 それが迷宮のように十重二十重に組まれ、上から見ただけでは分からないような迷宮を思わせた。それを彩るように天狗像が迷宮内を飾り付けるように至るところに置かれている。その足元にはツルハシや楔と言った昔の採石場で使っていた採掘道具が雑に放置されていた。 「採石場があったって言ってたな」 「せや、たまたま採石場跡地にぶつかってしもうて。地下空洞を掘って待ったんや」 「この村、元々は全国各地のお城さんに石垣届けとった村やで? 知らんかったか?」 「江戸時代あたりには天狗礫の大本って言われるぐらいには石で栄えとったんやで。ここの石も天狗様にあやかって天狗石って呼ばれるぐらいになったんや」 「城の石垣には花崗岩…… 御影石って言った方がええやろ。ここで使う天狗石よりも硬くてええ石でな。より良いものが出てきたらそっちに切り替えるのは今も昔も同じ、儂だってそうする。この村が天狗礫で栄えた時代は終わってまって、採石場も閉鎖、入り口も閉じたせいで、誰一人として行くことは出来ないと言う訳や、今やその名残は資料館に残ってる石の加工に使っていたハンマーやノミ、石の運搬に使っていた丸太ぐらいしかありゃあせん」  義圭は図書館で大作がこんな話をしていたことを思い出した。ここは閉鎖された採石場の跡地か。封鎖されたはずの入り口がこんなところにあったとは。義圭はただただ、驚くばかりであった。 義圭は目の前にあった階段を降りて石造りの迷宮に足を踏み入れた。音の主、錫杖を鳴らしていたあの時の天狗がいるかも知れない。 何か、武器は無いだろうか…… 義圭は天狗像の足元に転がっていたツルハシを持ってみたが、元々重い上に先端に重心が寄っている為にどうも扱いづらい。勉強ばかりで運動不足の義圭が使うには厳しい代物だった。 楔も短すぎて、ナイフのような手の延長の武器としては使えない。 何か無いだろうかと探していると、義圭はとんでもないものを見つけてしまった。電動ピックハンマーにチェーンソーの二つが放置されたように転がっていたのである。 「さすがにこんなのは持ち歩けないや」 さらにその向こう側には、先端の尖ったシャベルが盛り土の上に墓標のように突き刺さっていた。 「塹壕戦かよ」 義圭はシャベルを引き抜き、ぶんぶんと素振りをした。ツルハシ程重くはないし、突いた時に持ち手で押し込むことも出来る。この中では一番使いやすい武器だと判断した。
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