三章 天狗攫い

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 義圭はシャベル片手に石造りの迷宮を進み行く。階段の上り下りを繰り返しても同じような壁故に、同じような場所に見えて探索はあまり上手くいかない。渋谷駅や新宿駅を平然と迷わず歩くことが出来る義圭でさえも、この迷路は苦戦するものであった。 そもそも、ゴールがどこか分からないし、何がゴールかも分からない。ここに来た意味はなかったのではないかと考えているうちに、迷路の最奥へと辿り着いていた。 泥沼に嵌るような気持ちで辿り着いた迷路の最深部。そこには照明に加え日が差し込んでいる。左右には多くの天狗像が義圭を見つめるように飾られており、一見した感じ、広めの教会の礼拝堂を思わせる。 そこに入った瞬間、義圭は何かに躓いた。これまで不自然なぐらいに整備されていたのか平面だったのに何に躓いたのだろうか? その躓いたものを見た義圭は腰を抜かし、尻もちをついたまま後ずさりをしてしまう。 その後ずさりをした先で手に触れたものも、躓いたものと同じであった。 「何だよこれ…… ガイコツじゃないか」 そう、義圭は髑髏(しゃれこうべ)の頭に躓いたのである。 思わず悲鳴を上げそうになったが、これで「何者か」を引き寄せるわけにはいかないと口を押さえて耐えた。 義圭は腰を軽く叩き、スッと立ち上がり、周りを見ると、夥しい数の人骨が並べられていた。そのまま放置され積み上げられたもの、そのまま寝かされているもの、白い和服を着せられ座らされているもの、の三種類で構成されていた。人骨も茶色く変色し古いと思われるものから、まだ真白いものもある。  義圭は今すぐに泣き叫び、その場から逃げ出したいと本気で思っていた。だが、それすらも出来ない程の恐怖に押し潰されて半ば自棄になっていた。こうなればこの場所の正体を確かめてやる。義圭は屍の群れを潜り抜けながら更に奥へと進むのであった。 屍の群れの最奥には石造りの祭壇、それを見守るように岩壁に彫られた天狗の像があった。だが、義圭にとってそれはどうでもいいことだった。祭壇の上に寝かせられた一人の(ひと)の姿しか見えなかった。 祭壇の上には桜貝が白い着物を着て横に寝かせられていたのである。義圭は回りの光景を一切気にせずに彼女の元に駆け寄った。 「おい! さくら! さくら!」 義圭は何度も声をかけるが、桜貝に起きる気配はない。 もしかして、もう死んでいるのか? 義圭は不安に駆られながら桜貝の頬を何度もぱんぱんと叩いた。起きる気配は無いものの、頬は温かく体温を感じる。生きていることの証左である。それから肩を持って揺らしてみるものの、起きる気配は無い。死んだように眠っているとは正にこのことだった。 「良かった…… 生きてる」 しかし、何故にこんなところにいるのだろうか。今はあれこれ考えるよりも脱出だ。連れ帰ることが出来れば日野のおじさんに兼一も喜ぶだろう。 もうあと一息だ。義圭はぱんぱんと両頬を叩いて気合を入れた。
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