三章 天狗攫い

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カツーン カツーン カツーン…… 連続した足音が響いて聞こえる…… もしかしてあの時の天狗か? 本物の天狗だとしても、天狗の姿をした連続殺人犯(シリアルキラー)だとしても、倒して突破する覚悟を義圭は持っていた。シャベルを握る手にも力が入る。 足音の主が部屋に入ってきた。足音の主はシャベルを構える義圭の姿を見て心から驚く。 「藤衛くん…… どうしてここに」 足音の主は銀男だった。義圭は安堵してシャベルを床に落とした。 そして、心の底から安堵しながら銀男の元に駆け寄った。 「銀男さん! どうしてここに!」 「いや、これを聞きたいのはこっちなんだけどね」 銀男は義圭の後ろで眠っている桜貝の姿を見て、うんうんと頷いた。 「この娘が今回の……」 「今回? 今回ってどういうことですか?」 「私の質問に答える前に、一つだけ質問に答えてくれ。この娘、どうするつもりだい?」 「決まってるじゃないですか。村長さんの元に返します」 「と、なると、誰にも見られずこのまま村から脱出するしかないね」 銀男は祭壇の前に立ち、首を上に向けた。その目線の先には採掘場内を照らす照明とは別の光が差していた。その光は誰もが見知った光、太陽の光である。 「成程、あそこからロープで下ろしたってところか。登るのは無理…… 登ったところで袋のネズミでしょうね」 「何一人で納得してるんですか!」 「ごめんごめん、私の信じたくない最悪の事態(ケース)に近づいてるからね。作戦は立てないと」 銀男は部屋内を歩き回り、散乱した骨を手に取り見回した。その骨は大腿骨の中央がスッパリと切られたものであった。 義圭は険しい顔をしながら毒づいた。 「骨とかよく触れますね? 平気なんですか?」 「私は心療内科とは言え医者だよ? 学生時代に検体の解剖を経験しているから、この手のことは慣れているよ。それより、穏やかじゃない相手が来そうだよ」 「え?」 「骨が切られているんだよ」 「骨が経年劣化で腐り落ちただけじゃ」 「いや、大腿骨や上腕骨がザックリと切られているんだよ。自然風化でこんな切れ方はしない。しかも……」 銀男は骨の切断面をじっと眺める。刃物で切られたことは間違いないのだが、その切断面は連続する刃で削り砕き切られたように見えた。 「そもそもこの骨の山は何なんですか? 怖くてたまんないですよ」 「昨日の話、覚えているかね?」 「天狗攫いですか? 確か悪徳修験者の誘拐が原因だって」 「一般的にはね。この村においては別の意味があるんだ」
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