一章 天狗の仕業

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コンコン ノックの音がバンガロー内に響いた。この秘密基地は三人以外は誰も知らないはずの秘密の場所、ついに発見(みつ)かってしまったか? 三人は楽園の崩壊を嘆きながら、ドアをゆっくりと開けた。 「やっぱりここにいた。探したんだよ」 ドアを開けたのは紗弥加だった。義圭は思わず兼一に怒鳴りつける。 「おい! ここは俺たちだけの秘密基地だったはずだ! お前、黙って紗弥加姉ちゃんに密告(チク)ったのか!」 兼一は激昂し、怒鳴り返す。 「馬鹿! チゲーよ! 俺がこんなことするわけないだろ! 怪しいのはさくらだぞ! 同じ女同士でポロって言ったんだろ!」 桜貝も激昂し、甲高い声で怒鳴り返す。 「違うわよ! ここはあたし達だけの場所! 誰にも言うはずないじゃない! いい加減にしてよ!」 紗弥加は怒鳴り罵り合う三人を宥めにかかった。 「いつも遊んでる川にも公園にもいなかったでしょ? だから、ここしかないって思っただけよ。あなた達、秘密基地のつもりだったかもしれないけど、あたしはあなた達がずっとここで遊んでるの前から知ってたよ。コソコソどこに行くかと思えば、こんな面白い場所隠して……」 三人だけの秘密のつもりが、実は既に知られていたことはショックであった。三人はしょんぼりとした。義圭は雨に濡れた子犬のような目をし、紗弥加の顔を見上げる。 「伯母さんに言うの? 村の大人とかに言うの?」 紗弥加は優しく義圭の頭を撫でた。 「ここはあなた達だけの場所だもんね。そんな野暮なことはしないよ」 三人は安心し、笑顔でそれぞれの顔を見つめ合った。そして三人はガッチリと手を繋いだ。 義圭は紗弥加に尋ねた。 「ところで、ここに何しに来たの?」 「ちょっと、よっちゃんに急な用事が出来たことを伝えに」 「急な用事?」 「唐突なんだけどね。よっちゃんのお父さん、明日迎えに来るって電話あったよ」 「ええっ!」 まだ夏休みは半分以上残っている。義圭の雨翔村滞在予定は夏休み終了間際までであった。たった今、聞かされた予想外に早い帰宅に驚きを隠せないでいた。 「何だよ、よっちゃんもう帰るのかよ」 「寂しくなるなぁ」 三人は別れを惜しむように手を繋いだ。その間に紗弥加が割り込むように口を開いた。
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