三章 天狗攫い

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そう、あの天狗が何者だろうと今はどうでもいい。最優先はここからの脱出だ。義圭は桜貝を背負った。そして、先程途中で終わった脱出ルートの話を再開した。 「図書館で天狗攫いの真実を知って、このお嬢さんは『天狗の抜け穴』の先に生贄として捧げられていると踏んだんです」 「天狗の抜け穴って聞いた時点で『穴』を探したわけですね」 「そうです、この村には昔採掘場があったと聞きます。だから、地下に行く道をずっと探していたわけです。天狗神社が注連縄(しめなわ)で塞いでるところに行こうと思ったら、銃持ちの捜索隊に静止(とめ)られまして。余所者(よそもん)が天狗様の神域に入るなと銃口つきつけられながら怒られましたよ」 「普段は優しい人達なんですけどね」 「普段は優しい人間ほど怖いもんだよ。そんなこんなで集合団地の近くを通りかかったら貯水池を見かけてね、そこの排水口から地下に行けるんじゃないかって思ったわけだ」 「それで、来られたわけですか」 「フェンスを越えて、貯水池の役目を果たしていないぐらいに草茫々な湖面を切り分けて排水口に入ったってわけさ」 「じゃあ、その排水口まで案内の方を……」 「ダメなんだよ。外側から入ることは出来たんだけど、この内側から排水口に戻ることは出来ない、3メーターぐらいの高さまで登らないとダメなんだよ。飛び降りるなら、ギリギリで怪我しない高さなんだけどね。登るのは無理だ。ましてや、このお嬢さんを連れて登るのは難しい」 「じゃあ、僕の来たルート使うしかなさそうですね」 「正直、君に会えた時点でそれをアテにしていたんだ。会えなければ延々と彷徨うところだったよ」 「さっきの奴に遭遇したら……」 「会敵(エンカウント)しないことを祈りながら行こうか」 こうして、三人は命をかけた石造りの迷宮に挑むことになった。
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