三章 天狗攫い

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音もない迷路を進み行く三人。足音を立てないように気を使いながら歩いているせいか、辺りは静寂に包まれていた。あまりに音がなく「ツーン」と言った耳鳴りまでもがするようになり、銀男は思わず耳を押さえた。義圭は桜貝を背負っているため、耳を押さえることが出来ずに耳鳴りに耐えていた。 耳音響放射(じおんきょうほうしゃ)。無音状態にある時に脳から聞こえる単純な高音。外部から聞こえる音ではない。 こうしているうちに、採掘場全体を見渡せるぐらいの高所に辿り着いた。 銀男は高所から採石場全体を眺めた。そして、手が届くぐらいの近くにあった作業灯の眩しさに耐えられずに目を塞いだ。 「ちょっといいかな?」 「どうしました?」 「この照明っていつからあるんだろうね?」 「ここが採掘場として稼働していた時からあるんじゃ? 近くとも戦後とか……」 「ここは江戸時代ぐらいには採掘場としての役目を終えているよ」 「あ……」 「先の大戦時に防空壕として使っていたと言うセンもあるかもしれない。それだとしても、この照明がここにあるのは変なんだよ」 「工事現場とかにある照明ですよね? これ」 「そう、新しすぎるんだよ…… この照明。誰がこんなの交換してるんだい? こんな広大な場所にある照明なんて、用意するのも交換するのも手間がかかるじゃないか」 「天狗神社の人が外部に依頼して」 「この村の排他性の強さを考えるとなぁ……」 銀男は頭を捻った。この村の誰か、天狗神社の人間なり、若い衆なりが大量の照明を調達して付け替えた可能性もゼロではないが、限りなく低いと考えた。こんな高いところに接続する電機仕事が出来る人間に会っていないからである。村を一回りした時に「電機店」なぞは無かった。 電柱に書かれていた有事の際の連絡先も遥か遠くの県最大手の電力会社。つまり、この村には電機工事が出来るような業者は存在しないと言うことである。  三人が階段を降りると、採掘所時代(かつて)は採掘する職人達の休憩所だったと思われるあばら家の建物が見えてきた。銀男が振り返ると、義圭はハァハァと息を切らしていた。 「あそこに入ろう。一旦この娘を置いて疲れをとらないと」 「大丈夫です。早くここから出ないと」 「大丈夫と言う奴に限って大丈夫じゃないんだ。あそこで休憩をとるよ?」
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