三章 天狗攫い

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ぴきっ…… 何かに罅が入る音が聞こえた。その音は連続して続くようになり、足元が不安定に揺れ始めた。何と、二人が今乗っている橋に罅が入っているのだ。二人はもしやと思い橋の真下に首を向けた。 橋の下には天狗がいた。天狗は橋の下で電動ピックハンマーを突き立て、橋を壊そうとしていた。チェーンソーの次はドリル(電動ピックハンマー)かよ。一体何の恨みがあってあんな殺意の塊のような武器を我々に向けてくるのだろうか。 銀男がそんなことを考えているうちに橋は崩落した。 二人は崩落した橋、いや、瓦礫の山の上に倒れ込んでいた。ニ、三メーター程の低い橋だったおかげで二人は何とか怪我一つもせずに済んだのである。 「大丈夫かね?」 「口の中、砂まみれで最悪です。ペッペッ」 二人は唾を吐くように口の中の砂を吐き出した。桜貝はこれ程のことがあったのに未だに眠り続けている。 「呑気なお嬢さんだ」 「そんなに寝付きのいい娘じゃないんですけどね。一緒に昼寝してもちょっとした物音で起きるぐらいでしたし」 「手術用の麻酔だからね、これぐらいで起きてもらっては体を切り刻めないよ」 橋が崩落したことで土煙が巻き上がり舞い踊る。その煙の中より再び先程の連続した唸り声が聞こえる。その土煙を割いて天狗がその巨影を晒しながら二人に近づいてきた。 このままでは電動ピックハンマーで体をバラバラにされるのは自明の理、二人は足元も覚束ない瓦礫の山を降りる。瓦礫の山を歩けば地面がボロボロと崩れる不安定さ。 その苦境を眺めながら天狗はじわりじわりと二人の元に近づいてくる。電動ピックハンマーの音はさながら死へのカウントダウンの音だろうか。 「inventio! inventio!」 天狗はこう叫びながら足元の瓦礫を踏みしめていく。何かを投げようにも投げられるものはない。崩れた瓦礫はいずれも砲丸投げに使うような砲丸程の重量があり、投げたところで天狗の体には届くはずがない。 その時、瓦礫が滑るように動き出した。瓦礫の山は雪崩のように流れ滑る。それに伴い瓦礫の上にいた四人も雪崩に巻き込まれるのであった。
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