三章 天狗攫い

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 瓦礫の土砂崩れに巻き込まれて十分後、義圭は瓦礫の中で意識を取り戻した。一体、何があったのだろうか考え倦ねても何があったかの理解が出来ない。 全身が土砂まみれでの最低な状態。半袖部分の手には瓦礫の突起で切ったのか生傷が数箇所。生傷に土が入り込み熱く痺れるような痛みが走る。とりあえず、応急手当にもならない応急手当として全身にこびり付いた土砂を払う。今は自分よりも桜貝に銀男のことだ、芋虫が這い出るように立ち上がり、辺りを見回す。その傍らには男が一人うつ伏せで横たわっていた。土砂塗れの見るも無残な格好をした銀男であった。 「銀男さん!」 義圭は銀男を揺すって起こした。 「銀男さん!」 「藤衛くん!」 二人は再会を喜び手を取りあった。義圭は桜貝の姿が無いことを疑問に思い瓦礫の山の麓を見ると、横たわる桜貝の姿を見つけた。義圭は彼女の姿を見て心から安堵した。それから瓦礫の山の麓に降り、桜貝を背負う。 瓦礫の山は迷宮の外れにある川沿いで止まっていた。 どうしてこんな地下に川が…… 義圭と銀男は恐る恐る足元に気をつけながら川沿いへと降りた。川の水は地下のか細い光でありながら吸い込まれそうなぐらいに澄んだキラキラと光りながら流れている。 銀男は川に手をつけて匂いを嗅いだり、指につけて舐めてみたりと、何かを確かめていた。 「何、してるんですか?」 「傷口の土や泥を洗うぐらいはしておかないとね。使える水かどうかのチェックだよ」 「出てる水のせいだろ? ここの地下水ミネラルだかアルカリの数値が高いことが分かったんだ」 「パパから聞いたけど温泉に近いんだって。ちょっと前にこの町の水道で使ってる汲み上げ水の成分見てもらったんだけど、温泉みたいなもんだって」 「やーっと掘れる箇所見つけたんやけど、出たのも温泉やのうて地下水。水質はええからボイラー繋げて温泉にすることも検討ですわ」 「せや、たまたま採石場跡地にぶつかってしもうて。そこ流れる地底湖の水やったんやろな」 とりとめのない話である。義圭は昨日した話を思い出していた。 「あの、温泉にも使える水って聞いてますよ? 昨日の図書館にナントカリゾートの社長さんがいて、その話をしてくれました」 「なるほど、使える水ってことか。助かります」 どうしてあのような奇跡的なタイミングで土砂崩れが起こったのだろうか。その答えは瓦礫の中に混じっていた。瓦礫の中に丸太が数本はみ出ている。その丸太こそが奇跡を起こしたのである。 二人が様子を見ていた橋の下には丸太が積み上げられていた。かつて、採石場で巨石の下に敷き運搬するために使われていたものの余剰分である。その余剰分の丸太に天狗が崩した橋の瓦礫が乗り、瓦礫の下に丸太が敷かれる形となった。完全に橋が崩れた勢いで丸太も動き出し、瓦礫までをも動かすに至ったのである。 つまり、偶然が産んだ奇跡(ラッキー)である。 銀男は辺りを見回した。 「あいつはいないようですね。でも、一緒に土砂崩れに巻き込まれた以上はここにいる率が高いです。ここからは離れましょう、みんなの応急処理は別の場所で」 瓦礫の山より三人が去って数分後…… 瓦礫の山の中より真白い手が屹立するような勢いで土砂の中より生えてきた。 銀男の杞憂がなければ全滅していた瞬間であった……
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