三章 天狗攫い

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 二人は周囲を警戒しながら階段を登っていた。階段の横には穴を掘って作られた窓があり、高く登る度に迷路の全景が明らかになっていく。 採掘所だった時に採掘した石をどういった意図で積み上げ、迷路のようにしたのか。それは今となっては誰にも分からない。 最上階にあったのは電源室だった。そこから眺める迷宮は正に絶景。 しかし、その絶景を堪能している暇はない。義圭は自分が入ってきた入り口のある場所を上から眺めて確認した。 「あそこで曲がって…… 烏天狗の像があって…… ガーゴイルっぽい天狗の像があって……」などと、言いながら上から迷路の道筋を指でなぞり脱出路の確認を行う。 「わかりました。さっきの階段の反対側の階段から迷路に降りられますね。降りて左に三回曲がれば着きます」 「迷路内部は複雑だけど、道そのものは単純なんですね。迷路と言う意図を持って作られた産物じゃなさそうですね」 「人影とかは?」 「ここからじゃ高いんで、何とも言えないんですけど…… いません」 「瓦礫の山に埋まったままってのが理想なんだけどね」 「そう上手く行くわけがないです。あいつ、まだ生きてる気がします」 「今度鉢合わせしたら間違いなく死ぬねぇ?」 義圭は電源室の中を歩き回り、これからどうしようか考えていた。 電源室には配電盤のみで使えそうな武器は何もない。配電盤を見た義圭に「ひらめき」が生まれた。 「いっそのこと、あいつの目を封じちゃうっていうのどうですか?」 「どうするんだね?」 「電源、切っちゃうんですよ」 「おいおい、こんな事したら我々まで歩けなくなるじゃないか」 「いい手があります」 義圭は配電盤にある摘みを全部下に下ろした。次々に採石場内の照明が消えていく。採石場にある光は川沿いの差し込む光が入る穴と、義圭が入ってきた入口(出口)の光のみとなった。その二つの光は採石場全体を照らすには足りないものであった。 「まさか懐中電灯で照らして歩いていくつもりかね? それこそ天狗に『ここにいます』ってアピールする自殺行為だ。暗がりでチェーンソーやドリル振り回されたら、それこそ終わりだよ」 「銀男さん、スマホ持ってます?」 「電波は通じないが…… メモ帳代わりに持ち歩いているよ」 「電池、まだ大丈夫ですか?」 「メモ帳程度にしか使ってない。まだ大丈夫だよ」 よし。義圭は作戦の成功を確信し軽く頷いた。 「暗視カメラオンにして、一気にゆっくりゴールまで行きましょう」 銀男は義圭の立てた作戦を理解した。すぐさまに自分のスマートフォンを出し、カメラの暗視モードをオンにした。スマートフォンの画面は緑色の暗視映像となっている。 「じゃ、先導者(ポイントマン)は君に任せるよ。私はこの娘を背負って君が前にかざしたスマホの光を頼りに張り付いて行くからね」 「了解」 三人は命を賭けた闇の迷宮へと足を踏み出した……
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