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そこんところも好い塩梅に調節してやり、程よいところで奥へと移って満足させてやるのが玉露の仕事である。
客が酔い潰れて機を逃せば、それは娼妓の不手際だ。
茶屋に一泊して事もなせずでは恥を掻かされたと男が怒っても文句は言えない。
ましてやそれで上客を逃したとなっては、店の看板にも泥を塗る。
……のだから、けしてこんな投げやりに「潰れっちまえ」なぞと考えてはいけない。
いけないのだが。
――どうにも気が緩んじまうんだよねぇ。
別段、玉露も常々相手を潰して楽してやろうなどと、そんな浅はかな魂胆ばかりしているのではない。
むしろ百戦錬磨の彼としては、客は喜ばせてなんぼ、
自身の用い得るあらゆる手練手管を使っていい気分を味わわせ、惚れた腫れたの深みに嵌めさせることこそ面白い。
その為の努力は惜しまぬ根っからの娼妓である。
その彼が、猪田が相手だとどうにも手を抜いてしまうのである。
手を抜くだけならまだいい。
気まで抜けてしまう。
これは大いに問題である。
客の前で気を張っていない娼妓など、もはや娼妓とは呼べぬ。
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