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性質の悪い男
――この男は性質が悪い。
肩と肩とが触れ合う距離で相手のお猪口に酌をしつつ、玉露はそんなことを思う。
今まさに隣にいる男のことだ。
赤ら顔で目尻を垂れ下げ、注がれるままに酒を浴びているのは、
育ちはいいのにどこでどう道を踏み外したのだか三十路を行くのに妻も得ず、陰間茶屋に入り浸っちゃあ鼻の下を伸ばして金子を落としている、編集業の猪田興作その人である。
見たところ、完全に出来上がっている。
にもかかわらず、玉露は猪田の胸に背を預けるようなそぶりでしな垂れかかっちゃあ猪田が膳に戻しかかるお猪口を持ち上げさせ、
胡坐を組んだ太腿の辺りやなんかを摩り摩りして喜ばせ、
艶っぽい眼差しで上目遣いしつつ今にも接吻しそうな距離まで顔を近づけちゃあ猪口を傾けさせ、
と、どんどん杯を重ねさせている。
――酔い潰れっちまえ。
と、まあ内心はそんな具合だ。
猪田も猪田で止せばいいのに、玉露が近く侍っているのがよほど嬉しいのか、まったくされるがままである。
何せ今宵は二人っきりだ。
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