新歓編

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「第1戦目、赤チーム対青チーム位置についてください」 体の5箇所、頭、両腕、両足に紙風船を括り付けて僕は自陣の1番後ろに隠れる。 申し訳ないが他学年の同チームの人とは全く面識が無いけど、犀や草薙くん達は練習で仲良くなったらしく何やら作戦について話している。 「いいか晴、お前の武器はチャージャーだ。ここから動くな。前線で戦ってる俺らが狙われた時だけサポートしてくれ」 「うん、分かった。げほっ、ごほ…はっ、げほ」 「おい、大丈夫か...さっきから咳してるけど」 「うん、平気…薬は飲んでるし」 「ならいいけど……」 そう言って犀は頭を一撫でして自陣の前の方へ移動して行った。 と言うか僕本当に薬飲んだっけ? あれ?朝起きて、慌てて着替えて生徒会室に行って、それから設営で……あれ!?飲んでないな!?飲んでないや!! 「でも今から部屋に取りに戻れない…」 仮にも新歓の進行役、自分の試合が終わったからと言って休める訳では無い。 集計とかペンキの補充の指示とか負傷者が居ないかとか諸々…… 幸いそこまでまだ辛くはないし、こうやって後ろから狙うだけなら激しく運動もしないから平気だろう。 「では第1戦目、始め!」 会長の合図と共に前の方では早くも撃ち合いが始まった。 先に人員を減らすか、塗り進めるか。 そこら辺の駆け引きと戦略が肝になってくる。 取り敢えず、前の方を確認しつつ僕は自陣を塗りすすめた。 「草薙、右側から来てる!」 「時雨後ろ!」 ほうほう……イケメンの共闘は素晴らしい。 草薙と犀だった、どういうCPなんだろう。 甲斐甲斐しい犀に絆された秀才イケメン草薙くんが押し倒されるのか。 はたまた強気イケメンの草薙くんが犀にバブみを感じてお前がママになるんだよ!と押し倒すのか。 どちらも捨てがたい……。 「晴!後ろ取らせんなよ仕事しろ!」 中々本気のトーンで怒鳴られてビクッとする。 そんな怒らなくても良いじゃないか、自陣塗り込んでるんだし...。 まぁ大方塗り終わったので、少しだけ自陣の中央に移動してスコープを覗き込む。 因みにこの大会、チーム戦でもあり個人戦でもある。 チーム的に優勝すれば、あの年末にやる格付け番組の様に一流、二流、三流…みたいな感じで打ち上げでの対応に差が出る。最下位は給仕ね。 ちなみに個人優勝を取ると『何でも叶える券』という小学生みたいな券が貰える。 生徒会の権力をもって出来る限りのお願いを叶える券だから、みんな割と狙っているのだ。 「おっ、当たった」 チームメイトを後ろからこっそり狙っていた敵の腕に付いた紙風船を撃ち抜く。 意外と射程あるんだなこの武器。 中々楽しい。 それから僕達のチームは抜群のチームワークを見せ付け、自陣の塗りこみも相まって、なんと勝ち進んでしまったのである。 「2人ともすごかったね、敵をバンバン撃っちゃってさ」 「伊達にサバゲーやってねぇよ」 「やってみると簡単だね、ペンキで足を滑らせてたし」 犀は何と無傷、草薙くんは片腕と片足を失ったけどまだ3個も残ってる。 他のチームメイトも好成績。素晴らしい、僕?僕はもちろん自陣に引きこもってたから無傷です。 女装したくないしね。 「皆さんお疲れ様でした、僕は運営席に戻りますけど皆さんは水分とったりしてゆっくり休憩してください」 先輩方にぺこりと頭を下げて運営席に戻る。 体にはかかってないけど、足はペンキでぐちゃぐちゃでなんとも言えない感覚だ。 「お疲れ様でした」 「ご苦労、見事だった」 「ありがとうございます。次は先輩方の試合ですね、敵同士ですけど……応援してます」 「八城先輩を女装させてやるから見とけ」 「……ウチには宇白も居ますし何より風紀が2人出ますから」 「ウチには要が居るからな。陸上部のトップも連れて来てる」 何だかバチバチと火花を散らし始めた2人を他所に、背後からヒヤリとした腕が巻き付く。 「わっ、榊先輩」 「……がんばる、から…充電」 後ろだから表情は見えないけど、きっと子犬のような可愛らしい顔してるんだろうなと思うと思わず笑ってしまう。 「あっ!要何してんのー!ダメだよ離れてー」 「宇白先輩...運営席にしれっと入って来てる」 「御坂くんに頑張れって言ってもらおうと思って」 榊先輩をベリベリと剥がしながら僕の正面に立つ。 なんかこう……あんスタで言うところの羽風薫だ……。 あんずちゃんにぞっこんになってからは遊びもやめて一途になっちゃう... てことは好きな相手が出来たら健気受けになるてことでは!? 「御坂くん」 「あっ、はい、すみません」 「何が?」 「ぁ、いえ…気にしないで下さい」 「御坂くんかっこよかったね、遠くからバンバン撃ち抜いてて」 真正面から素敵な笑顔で褒められると、やっぱり照れちゃうね。 顔面がアイドル級だから。 「俺も勝つね。だから見てて」 しれっと握っていた僕の手を持ち上げて、指の先に軽くキスを落とす。 えっ、ちょ... 「わー!宇白先輩の親衛隊に殺される!」 「ははは、大丈夫だよ。俺がそんな事させないから」 「第2戦目、黄チーム対緑チームは位置についてください」 「あらら、呼ばれちゃったか」 「ここで見てますから、頑張ってください」 「うん、行ってくる」 僕に手を振り、八城先輩と合流して自陣へ向かっていく。 それを見て僕も席に着く。 あ、双子?双子は今隣に座ってます。 双子は1-Aで1戦目僕らと戦って負けてます。 そのせいで今は隣から凄い恨みがましい視線を向けられて穴が飽きそうです。 なんせ双子の紙風船3つを割ったのは僕なので、ははは。 「御坂のくせに」 「……ムカつく」 「ご、ごめんね……でも風船残しといたから女装はまだ確定してないし」 「は!?残しといてやったみたいな言い方だな!」 「さらにムカつく!」 両サイトからちぎれるぐらいにほっぺを抓られる。 いててて……てかなんでぼく間に座ってるの。 「2戦目、始めてください」 僕の静かな合図で2戦目は始まった、が。 一瞬だった。 八城先輩が軽く指示をだし、宇白先輩は前線で足場が悪くなる前に敵を撃ち抜いて言った。 風紀委員長の一之瀬 恵(いちのせ めぐむ)先輩と同じく風紀の副委員長閑田 颯(かんだ りく)先輩も前線で、バンバン撃ち抜いてて……。 最後に会長が残り、何と宇白先輩、一之瀬先輩、閑田先輩に囲まれて降参していた。 これで会長と榊先輩の女装は確定した訳だ。 これはいい収穫。 八城先輩は1発も撃つことなく、汚れること無く勝利を収めた。 汚れたくないという執念、凄い伝わってくる。 「げほ、ごほっ……あんまり休めなかったな」 「次俺らかー」 「敗者決定戦だねー」 双子はダラダラと準備を始めるけど、劣は何だか浮かない顔をしている。 「劣、具合悪い?大丈夫?」 「はー?劣が具合悪かったらお兄様の俺がすぐ気付くし。ねー劣?」 「う、うん。何にもない」 「そっか、じゃあいいや。いってらっしゃい」 2人を見送ってから一息つく。 何だか息苦しくなってきた。 決勝戦まで持つか不安だけど、ここでじっとしれば大丈夫だろう。 そして3戦目。 やはり具合が悪かったのだろうか? 双子は劣だけが全ての紙風船を失って、黄色チームの勝利。青チームだった双子は優が負けたが女装は免れた。 「俺様が3位とはな。まあ、八城先輩が指示してるチームなんだ、負けても仕方ないな」 「当たり前です。どれだけ他にお荷物を抱えてようと、 宇白、一之瀬、閑田が居れば負ける事は有り得ませんから」 こんな発言してる人と次戦いたくない……。 そして会長と話しながらこっちみてる、狙われてる……。 「決勝戦、赤チーム対緑チーム位置についてください」 八城先輩にぺこりと頭を下げて自陣へ向かう。 絶対殺すと目の奥に書かれてたけど、見なかったことにしよ・・・。 こっちにはサバゲーガチ勢の犀が居るもん、大丈夫……。 僕はさっきの作戦と同じで、また自陣の一番奥に付く。 ザワザワとする体育館で何だか音が遠く感じる、心臓は脈打つ感覚が分かる。 自分の呼吸音がやけに大きく聞こえる。 「決勝戦、始め!」 会長の合図と共に、僕はグリップを強く握りしめた。
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