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無精子症
「まったくないというのではなく、通過障害も考えられますので造影検査をしましょう。それで見つかる場合もありますので」
医師は小さく頷きながら、少しの憐れみと、幾ばくかの励ましを含んだ老練な笑みを浮かべた。
「通過障害……ですか?」
「ええ、精管と精巣の造影検査をして原因を探ります。たとえば精索静脈瘤といって、まあコブですが」医師は紙にボールペンでイラストを書いてゆく。
「それが妨げになって精子が送られていない可能性も考えられます。閉鎖性の無精子症ですね。大げさな手術ではありませんが検査入院をおすすめします」
「精子がいるかもしれないということですか」
「ええ、見つかる場合もあります」
「いえ、結構です」
眼鏡を押し上げ怪訝そうに眉を曲げた医師に、鳴海修作は慌てて言葉を継ぎ足した。
「というか──今仕事が忙しくて休むわけにはいかないんです。落ち着いたらまたお願いしたいと思います」
「そうですか。そのときはまたご連絡下さい」笑顔を浮かべた医師に鳴海は問いかけた。
「先生、急になることってあるんですか? たとえば、この一年ニ年の間にそうなってしまったとか──その、無精子症ですが」
「いえ、それは考えにくいですね。というか、ないと思って下さい。それにそもそも、精子の有無さえ検査をしてみないと分かりませんのでね」
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