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「ついでに寄っただけ、なんだ。じゃあ用なんか無いのね?」  イジワルするように、また、おねだりするように意地悪っぽく秋彦に尋ねた。もはや先ほどまで抱いていた、私は変われない、などいうような神妙な気持ちは春香には無かった。ただただ自分の恋人を天邪鬼にもイヂめている戯れを楽しんでいた。  そして、秋彦を愛おしく見ていた。  早く傍(かたわ)らに行きたいと思った。  秋彦は悪戯っぽく問う春香に対して、相変わらずセカセカとしながら答える。 「あ、い、いや、用はあるよ」 「どんな用よ?」 「……抱きしめにきた」  ドキン。  僅かな沈黙の後に、いきなり真剣な声に変わった秋彦の声に、危うく春香の小さな胸のハートはKOされそうになったが、内気なくせにカッコつけやがって、胸襟、そんなケチをつけ、すぐさま平静さを装い、 「かなりキモいんだけど」  と滔々とキツめの一言を放つと、スマホもベッドに放り投げ、すぐに翻り満面の笑顔で階段を降りていった。                                  了
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