Time stops now...

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 俺は彼女とは違う大学に行った。研究者になりたかった。大学に入ってしばらくは頻繁に連絡を取っていたが、卒業が近くなるにつれ少しずつ減っていった。大学院に進み、研究室に入ってからはしばしばメールを放置することもあった。  忙しいが口癖だった。でも、本当はただ面倒だったのかもしれない。夢に溺れていた俺は、新しい環境に進んだ詩織の話を聞くのがなんだか時間のムダに思えたのだ。あいつは我慢強くていつも俺を優先してくれたから、その優しさに甘えていた。 『昔からずっと頑張ってたの私は知ってるから。大丈夫、こっちは心配しないで。応援してるよ』  あの時彼女がどんな顔をしていたか俺は覚えていない。自分は好きな道に進んでやりたいことをやっているくせに、詩織がどんな思いだったかなんて想像したこともなかった。  だから、飛び降りたんだろう。  詩織の勤め先は所謂ブラック企業で残業休日出勤は当たり前、上司からのパワハラも酷かったらしい。  そんな環境でも、我慢強いあいつは何年も一人で耐えてきた。周りに弱音を吐いたりもしなかった。  ……いや、吐けなかったんだ。グチをこぼせば俺が嫌な顔をするから、言いたくても言えなかったんだと今ならわかる。  彼女が飛び降りた理由に、俺への当てつけが含まれていないとどうして断言出来る。
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