Time stops now...

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 座ったまま微動だにしない詩織の髪を優しく撫でた。 「なぁ、覚えてるか? 高校の文化祭」  俺達が出会ったのは高校二年の時だ。初めてクラスで一緒になったけど、最初はほとんど話さなかった。偶然文化祭の委員に俺達が選ばれて、それからだった。  大人しそうな見た目に反し、話してみたら詩織は意外とアクティブでそのギャップに驚かされた。戸惑って、惹かれた。  あれこれと彼女が積極的に案を出し、その案に理屈っぽい俺が具体的な肉付けを行う。初めて話したのに俺達の息はピッタリと合った。 『すごい! 本当に頭がいいんだね。いつもテストで上位だし』 『元の頭がいい訳じゃないよ。勉強してるから』 『知ってる。よく図書室で見かけるから。頑張り屋さんなんだよね』  そう笑った顔が眩しかった。俺達は毎日昼休みと放課後に打ち合わせをした。あの頃は本当によく話し、よく笑いあったんだ。  当時はなんとも思っていなかったのに、時が経って色褪せるどころかより鮮やかに輪郭が際立つのはどうしてだろう。  きらきらと輝く思い出のカケラは、いつも俺の周りを蝶のように舞い踊って心を惑わしていく。シャボン玉のようにくるくると違う面を見せて、それでいて消えることがない。  俺は詩織を高校へ連れて行った。大学進学を機に上京していた俺達にとって、何よりも代え難く懐かしい風景がそこに広がっていた。  いつものバス停、曲がり角の和菓子屋さん、よく寄り道をしたコンビニ。それらを通って、少し急な登り坂を上ると校門が見えてくる。
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