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時が止まればいいと思った。
世界が終わればいいと思った。
未来なんていらない。
ただ君といた時間だけあればいい――。
「詩織! 俺がわからないのか?!」
病院に駆け付けた俺が見たのは、白いベッドに抜け殻のようにぼんやりと座っている詩織だった。いや、その印象は正しい。そこにいたのは詩織の姿だけを残した残り香だったからだ。俺は震える手で詩織の手を取ったが、いつもなら握り返してくれる暖かな手は冷たく脱力したままだった。
記憶がないらしい。しかも自我を司る部分が傷付いたらしく、自分から話すことも動くことも出来ない。
食べるとか寝るとか体に染み付いた行動は周りの補助があればこなせるが、そのぎこちない動きはさながら出来の悪いロボットのようだった。
終わらない悪夢を見ているみたいだ。あんなに感情豊かでよく笑ったり泣いたりしていた彼女が、今は生きているだけの人形となってしまったのだから。
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