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蔡未と呼ばれた彼女ーーメイドは宗太の隣を横切ると、まっすぐ主人の元に戻っていく。
そして、スカートの両裾を上品に持ち上げ、
「ーー南條蔡未〈なんじょうさいみ〉と申します。先の紹介の通り、この鳳一千夏様の世話係を務めさせていただいております。どうぞ、お見知りおきを」
ペコリ、とお辞儀。
銀髪のミドルヘアー。宗太から見て右の目元を前髪で隠してるためか、どこかミステリアスな雰囲気が漂う。
その立ち振る舞いはまさに礼儀正しさの権化。その現実離れした見た目は、主人と比べても引けを取らない。
黒の長髪である一千夏と合わさり、まるで本当に妄想でも見てるかのようだった。
「それで北島……だったか。一体、わたしになんの話があるというのだ?」
「さっきので全部だよ。昨日と今日で、どうしてそんなにもキャラ違うのかって」
「それは……」「それは私が説明いたしましょう」
言葉をさえぎるようにして、蔡未が自ら解説役に立候補する。
「いいのかよ。こういう時、メイドっていうのは主人の言葉を待つもんじゃないのか?」
「時に、主人の間を取り持つのもメイドの勤めです。そして、今はその役目を果たす時だと判断いたしました」
つまり、今の質問は一千夏には答えづらい内容だという事。
宗太は納得すると、話の続きを促した。
「簡単に申しますと、新しい学校では普通の生徒でありたいと思ったお嬢様が、まず話し方から変えてみたものの、やっぱりめんどくさいとさじを投げそうになった……という事です」
「いや、なにもかも言いすぎではないか!?」
一千夏が勢いよくツッコむ。
「でも、ウソは言ってないですよ。というか、全部事実です」
「それはそうだが……でも、他に言い方があるであろう!? もっとこう、オフロードに包む的な!」
「それを言うならオブラートです。どちらにせよ、この場合は真相を隠すことにメリットを見出せなかったので」
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