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イタズラが見つかった子供のように、一千夏が大きな声を上げる。
「……はぁ。全く、こんな事では先が思いやられますね」
「ううっ。自業自得とはいえ、結局バレてしまった……。昨日はなんとかごまかせたのに……」
「サボるならサボるで、もう少し言動に気をつけないといけません。それこそ、ウソをつくのに抵抗がないくらいでないと」
「それもそれでどうなんだ?」
思わず口出ししてしまう宗太だった。
「お嬢様はいつか鳳家を継ぐ身。婿養子を取るにしても、実質的な権力者は一人娘であるお嬢様なのです。こういう技術も、いざとなれば必要な時が来ます」
「それはわかってる、わかってるが……」
今までの発言から考えて、どうやら鳳一千夏という子はかなりのお金持ちらしい。
つまり、それは立場的にもお金持ちというわけで。たとえば名家だったり、それこそ多方面に力を持つくらいの家柄。
そのため、習い事をするのは想像に難くないのだが……宗太が思ってる以上に、その内容は苛烈を極めてそうだった。
「あのさ、一つ訊いていいか?」
「それは私にですか? それともお嬢様でしょうか」
「メイドのあんたにだよ」
だから、どうしても気になってしまう。
それが彼女だけの問題なのか。あるいはそうじゃないのか。
「あんたは、ゲームってやった事ある?」
「蔡未です」
「へ?」
「『あんた』ではなく、私には蔡未という名前があります。私も宗太さんとお呼びするので、そちらも同じように」
「あ、うん。それは別にいいけど……」
しかし、まさかいきなり名前呼びを求められるとは思わなかった。
メイドの世界では、そういうのが当たり前なのだろうか。
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