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時刻は夕方過ぎ。
春の空は、この時間でも未だ明るさを維持している。いくものちぎれ雲と、たまに吹く強い風が4月後半の季節感を演出していた。
「こうしてあらためて来ると、なんだか心がワクワクするな! う〜早く中に入りたい!」
「今日は習い事の先生が遅れるようなので、時間も十分にあります。では殿〈しんがり〉をお願いします宗太さん」
うぃーん。
自動ドアが開く音とともに、ゲームショップに入っていく大所帯。メイドとキラキラした目で店内を見回す黒髪美女、そして死んだ目をした男子で組まれたパーティ。
売り場にいた店員が疑惑の視線を向けるくらいには、その光景はあまりに異質だった。
「……なんで俺、こんなところにいるんだろう」
「お嬢様にゲームを教えるためですね」
「いや、俺は一言もやるって言ってないんだけどね」
むしろ必死に回避しようとしてた……が、なし崩し的にこうしてゲームショップまで来てしまった。
こうなった事に後悔を感じつつも、諦めという感情が宗太の中に浮かび上がる。
「これがげーむ……ゲームか! すごい、種類が多すぎてよくわからん! 内容もわからん!」
「わたしもお嬢様と同じような気持ちです。ゲームに触れたことがあるとはいえ、それから年月も経ってますし。まさか、今はこんなに進化してるなんて」
店内を見回しながら、驚嘆の声をあげる二人。まるでテーマパークにでも来たかのようなテンションの上がりようだった。
「このゴーグルみたいな物はなんですか?」
「VRだよ。それを被ると、自分がゲームの中に入ったみたいに感じられるんだ」
「なるほど、これがVRですか。名前は聞いたことがありますが、実物を見るのは初めてです」
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