36人が本棚に入れています
本棚に追加
「鳳さんってスタイルよくて、運動とかもできそうだよね。鳳さんと同じクラスなら、きっと体育大会も優勝間違いなしなのに」
「ふふっ」
勝手な期待を抱く別クラスの女子。それに対する一千夏の微笑み。
なんだかより一層、騒がしさが増した気がする。実際、教室内の人口密度はだいぶ増していた。クラス二つ分、とはいかずとも確実に1.5倍は増えている。
それは別に構わないのだが、秘密の共有と、予期せぬ契約がふと頭をよぎる。
鳳一千夏という世間知らずなお嬢様に、ゲームという娯楽を教える。ただしジャンルはギャルゲー。
……やはりどこかおかしい。おまけに、その具体的な方法も決まってないと来た。
誠に遺憾だが、約束してしまった以上はやるしかない。とにもかくにも話をするために、放課後がやってくるのを待つ宗太だった。
だが想定より少し早く、そのタイミングはやってきた。
昼休み。教室を出ていくクラスメイトの声に混ざるようにして、耳元で聞きなれた声がした。
「ーー屋上、階段前」
こそばゆさに後ろを振り向くと、そこにはもう誰もいなかった。
だが、あれはたしかに蔡未の声だった。声量のわりに聞きづらさのない声。声が凛としている、とでも言うのだろうか。
「屋上ね……」
言いながら教室を見渡すと、蔡未だけでなく、いつの間にか一千夏も姿を消していた。
なるべく目立たないように教室を出て、宗太は指定された場所に向かう。
階段を上がり、一年の教室がある三階を超えてさらに上。昼であっても薄暗さが残り、ポツンと存在する鍵付き扉がどこかさみしさを感じさせる。
そんな情緒じみたことを思いながら、宗太は周囲を見回して。
最初のコメントを投稿しよう!