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「なんですかそれは?」
「なにって、お前に着せる服の候補だ。自分で選べないというのなら、わたしの手でお前をイケイケ女子にコーディネートしてやろう」
「それは構わないのですが……どうしてお嬢様がそのような服を?」
一千夏は普段、着物しか身につけないはず。
制服は学校があるから仕方ないとして。それ以外の格好になるのは、当人である一千夏自身が良しとしないはずなのだ。
だが、その手に持つは今時の女子然とした服の数々。時代を一気に駆け上がったその布地達は清潔な匂いを漂わせ、どこか真新しさを感じさせる。
端的に言えば、バリバリの新品だった。
「夏に実家に帰った時に、母上にネットショッピングのやり方を教えてもらってな。家にいるだけで買い物が完結するからと、最近はえらく重宝しているらしい」
「そして、お嬢様もそれを試してみたと。……よく私に気づかれず、買う事ができましたね?」
「置き便指定、という便利な機能があるのでな。連絡が来たと同時、門の前に置かれた荷物をこっそり回収したのだ」
「そこまでしたのに結局、自分では着なかったのですか?」
「……サイズを間違えたせいで、着れなかったのだ。あと、やっぱりわたしは着物姿が一番落ち着く」
完全に押しつけだった。
だが、サイズを間違えるというのはわかる。蔡未も一度、ネットショッピングにチャレンジしてみた事はあったが、ページを開いただけで軽いめまいに襲われた。
その後、なんとか下着を買うところまでこぎつけ……結果、サイズを間違えた。
よって、蔡未の部屋の押し入れの中には、胸元がゆるい下着(ブラジャー)が日の目を見ることなく今も眠っている。これは蔡未の中で唯一、黒歴史に認定されている事例。
とまぁ、そんな話はさておき。
「……こんな感じでどうでしょう?」
「うむ、実によく似合っている。元々、蔡未を驚かせるために買った物だが、まさか蔡未がそれを着ることになるとは。全くもって、人生というのはなにが起こるかわからないな」
「これはそこまで大げさな話ではないと思われますが」
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