36人が本棚に入れています
本棚に追加
ブラウスの上から重ねるようにして着衣した黒のキャミソール。
その装いは、まるで上質な生け花のようでもあって。
「……これだとまるで、普通の女の子のようですね」
自分の格好をまじまじと眺めながら、蔡未がふとそんな感想をこぼす。
「わたしとしては、もう少し攻めた感じでいきたかったのだがな。まぁでも、デートなのだからそれくらいが丁度いいだろう」
「いえ、これは単に男子と二人っきりで出かけるだけです」
「普通、それをデートと言うのではないか?」
「……」
訂正したつもりが、自分から墓穴を掘ってしまった。
そうこうしているうちに、約束の時間まであと少し。まだ急ぐほどではないが、問題は心の準備の方。
この格好を宗太に見られる事。それすらも恥ずかしいのに、この格好のまま外を歩くのはあまりにリスクが高い。
(しかし、ここで物怖じするのはメイドとしてあるまじき事。お嬢様のために。そして、イヤじゃないと言ってくださった宗太さんのためにも、私はこの羞恥に打ち勝ってみせます)
胸元で拳を固め、静かに闘志を燃やす。
そんな蔡未を邪魔しないように、一千夏は静かに部屋を後にした。主人としてやれる事はやった。なら、あとはその行く末を見守るだけ。
ーーが、それからすぐの事。
「……? 電話……もしや宗太さんからでしょうか?」
机の上で振動する携帯を手に取り、画面を開く。
そこに表示されていたのは……自分のよく知る番号と名前だった。
しかし、その相手は宗太ではなく。むしろ、予想もできなかった相手でーー
最初のコメントを投稿しよう!