第14話 思ったようにいかない。ゆえにメイドは自らの環境に苦悩する

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「蔡未。オレと一緒に来いーーそれが、お前にとっての幸せだ」 蔡未が男に口説かれている。 呆然としながら、宗太は目の前に広がっている状況を冷静に分析した。 (……!? いや、ボーッとしてる場合じゃねぇ! 急いで隠れないと!) あわてて曲がり角に身を隠す。 荒く呼吸を繰り返しながら、塀に背中を押しつける。脈打つ心臓。なにが起きているのかわからない。どうしてこうなったのかわからない。 だが、やがて一つの可能性を導き出した。抱きついているように見えて、実際のところはそうではなかった。 距離が近かっただけで、あれはただ向かい合っていただけ。全てはこっちの勝手な思い込み、もとい勘違いだったのだ。 宗太は気を取り直すと、覗くようにして、再び曲がり角の先を見やる。 「愛してるぞ蔡未……」 見間違いじゃなかった。 しかし、こうして現実に起きている以上、そこから目をそらす事はできない。 とーーそんな風に諦めを見せていると。 「……いい加減、抱きつくのはやめてください。誰かに見られたらどうするのですか?」 「いいじゃん、見せつけてやれば。オレ達が仲良しなのは違いないんだからさ、他人がどう思おうが知ったこっちゃねーよ」 「そっちはそうかもしれませんが、私は知ったこっちゃあるのです」 「グエッ」 蔡未に押しのけられ、男が苦悶の声を漏らす。 そのわずかな隙を見計らって、宗太は曲がり角から飛び出ると、そのまま二人の元に近づいていく。 事情は知らない。でも、蔡未が困っているのなら、それを助けるのは当然だ。 たとえ後ろ指をさされ、『お節介』と揶揄されようとも。
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