第14話 思ったようにいかない。ゆえにメイドは自らの環境に苦悩する

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「そんなイジワルするなよ〜。オレはただ、蔡未と抱擁を交わしたいだけなのに……」  「なら、時と場所を選んでください。ここはお嬢様と私が暮らす家です。そこでこんな風に抱きつかれるのは……」 「ーーしばし待たれよ、そこの二人!」 いきなりの停止を促す声。 男は訝しげにそちらを振り向くが、蔡未は一足早くその正体にたどり着いていた。 「宗太さん? どうしてここに……」 宗太の姿を見て、蔡未がわずかに表情を崩す。 だが、その説明はあとだ。その前に、これだけは言わないといけないーーこうして堂々と姿を晒したのは、その目的を果たすためなのだから。 「……距離が」 「えっ?」 「距離がっ。……近いと思います……はい」 「……宗太さん」 蔡未のため息混じりの呟き。 体中の血という血が顔に集まっていく。 熱い。そして恥ずかしい。できることなら、時間を巻き戻したいくらいだった。 「……えーっと……もしかして、蔡未の知り合いかなにか?」 茶色がかった髪をかき上げながら、男が蔡未に問う。 「あ、はい。この方は北島宗太さん。同じ部の仲間で、私の……」 「……! なるほど、そういうコトね。いやはや、なら悪いコトしちゃったかな」 男はそう言うと、宗太との距離をズンズン詰めていく。 壁を隔てるようにして、目の前に立ちふざかる巨大な体躯。しかし、横の広さは羽織っている黒色のコートによるもので、肥満体というわけではない。 それどころか、スラリと伸びた足はどこぞのモデルを思わせるかのようで。 全体的に落ち着いた色合いの装いは、まるで夜の世界で働く小粋な成人男性のようでもあった。
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