36人が本棚に入れています
本棚に追加
「……悪いが、全部見させてもらった。あんたが蔡未に抱きつくのも、蔡未がそれを嫌がってるのも全部」
「お? 急に敵意むき出し? さっきまで謙虚だったのに、やるねぇーキミ。そんなにこの子が心配だった?」
「くっ……」
心なしか、煽られている気がする。
否、これは確実に煽られている。もしくは遊ばれているか。
どちらにせよ、感情に任せるのはこの場合、得策ではない。あくまで冷静に。ようやく動いた口先で、相手に敵意という名の切っ先をぶつけてやればいいだけの話だ。
がーーしかし。その決意は、続く蔡未の一言で水泡に帰する事となった。
「……それ以上、宗太さんをいじめないでください。彼は私の、大切な友人なので」
「友人ねぇ……。オレとしちゃどっちでもいいけどさ。まぁでも、一つだけ意見を言わせてもらうなら、若いうちはもっと素直になった方がイイってコトくらいかな」
「心底、余計なお世話です」
強く言うと、蔡未は男をスルーし、宗太の元に近づいていく。
「……申し訳ございません宗太さん。せっかく来ていただいたのに」
「いや……蔡未が謝る必要はないよ。これは俺が勝手に来ただけなんだし」
「そうですか」
「……で、いくのか?」
「いく、というのは?」
「あっち側に。それがお前の幸せだって、さっきそう言われてただろ?」
「……宗太さんは、私にいってほしいと思っているのですか?」
まさか、そんな事を言われるとは思っていなかった。
真面目に答えるか悩む宗太だったが、
「……なんて、冗談です。私の今いる場所はここなので、どこかにいくなんて事はあり得ません」
めずらしい蔡未の微笑。
それを見て、心の底から安心した。蔡未にどこかにいってほしいなんて、そんな事思うはずがないし、そんな未来は誰も望んでいない。
どうしてさっきは即答できなかったのかと、宗太の中で今さらな後悔が募っていく。
最初のコメントを投稿しよう!